健康志向の高まり、高齢化、働く女性の増加など、食卓を取り巻く環境は大きく変わった。食品メーカーや卸業者など食に関わる会社は、こうした動きをビジネスチャンスと捉える。これからのニッポンの食卓とは? AERA 12月5日号では「進化する食品」を大特集。例えば、タンパク質のグルテンを含む小麦などを避けた「グルテンフリー食品」。小麦製品に主食の座を奪われそうになったコメ業界が今、熱い視線を送る。
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「グルテンフリー」「グルテンフリーダイエット」という言葉をご存じだろうか。小麦、大麦、ライ麦などから生成されるタンパク質のグルテンを含まない食品がグルテンフリー食品。グルテンフリーの食生活をグルテンフリーダイエットと呼ぶ。
もともとは小麦アレルギーや、グルテンが分解できず腸が炎症を起こすセリアック病、グルテンの摂取で何らかの体調不良が起きるグルテン過敏症(グルテン不耐症ともいう)といった免疫疾患を持つ人向けの食事療法として始まったものだ。
近年、テニスのノバク・ジョコビッチ、スーパーモデルのミランダ・カーなど有名人が実践し、欧米で急速に普及している。
●食欲中枢を刺激する
多くの人がグルテンフリーに取り組む理由は、「健康」だ。イギリス本社の調査会社ミンテルによると、アメリカでのグルテンフリー食品の購入理由は「健康のため」が65%、「減量」が27%、アレルギーを理由とするのはわずかに7%だった。
グルテンには食欲を増進させたり、血糖値を急上昇させたりする作用があるとされている。
「特にグリアジンは食欲中枢を刺激するため、一日に約400キロカロリー余計に食べたくなると言われています。小麦食品を食べだしたら止まらなくなるのはこのためです」
こう語るのは、グルテンフリーライフ協会代表理事のフォーブス弥生さん(44)。夫がグルテン過敏症だったことをきっかけにグルテンフリーの生活を始めた。グルテンには血管の病気のリスクを高める可能性も指摘されているという。
「集中力を上げることによるパフォーマンスの向上、体調不良や肌質の改善、減量、女性の月経前症候群(PMS)の軽減など、さまざまな効果が期待できます」
欧米では、グルテンフリーはすでに一大市場を形成している。インド本社の調査会社マーケッツアンドマーケッツは、世界のグルテンフリー市場は2015年に46億3千万ドル、20年に75億9千万ドルと、年平均で10.4%成長すると予測している。
マクドナルドは一部の国でグルテンフリーのバンズを提供。アメリカやオーストラリアのドミノ・ピザではグルテンフリーの生地をチョイスできる。アメリカではスーパーなどの陳列棚にグルテンフリー食品が並ぶ。キッコーマンやサンジルシ醸造のグルテンフリーの醤油もあるという。
国内では、ジョコビッチ選手の体質改善が伝えられてからグルテンフリーが認知されるようになってきたものの、グルテンフリーの商品や、メニューの提供はまだ少ない。しかし、外国人旅行客の増加や20年東京オリンピックを見据え、グルテンフリーのニーズに対応できるサービスを目指す外食産業やホテルが出てきた。
●コメでパスタを作る
成長市場のグルテンフリーに注目しているのがコメ業界だ。
少子高齢化と食生活の変化で、国内のコメ需要は年8万トンのペースで減少。輸出に踏み切っても、外国産との価格差などで利益を出すのは至難の業だ。八方ふさがりともいえるなか、コメを小麦粉代わりに使うグルテンフリーに活路を見いだした。
「グルテンフリーパスタが、製造の検討を始めてたった10カ月ほどで数千店舗に納品できることになった。グルテンフリー食品は十分うちの主力商品になる。すごいことだよ」