ゼミの山場はやはり「屠る」についての問題だ。烏骨鶏とホロホロ鳥をヒナから育てた彼らは「命をいただく」現実と向き合わねばならなくなる。

「スーパーのトレイの肉は誰が屠っているのか。それを仕事にしている人はどんな差別を受けているのか。そして自分で動物を屠ったら、どんな気持ちがするのか。知ることと同時に『体験』することが大切なんです」と関野。前田も言う。

「ポーカーフェイスでやっていた子に後で話を聞くと『何も覚えていない』と言うんです。見ていることと、実際にやることは大違いで、私自身も食べ物への見方が変わったし、人間のエゴイズムを改めて意識するようになりました」

 関野は一橋大学在学中から探検を始め、南米アマゾンを中心に活動。医師免許を取得し、探検先で医療活動にも従事してきた。1993年から8年かけて南米最南端からアフリカまで人力で遡り、帰国後に武蔵野美術大学で文化人類学の教授に就任した。世界を見て「自分の足元を見直す」必要性を感じ、学生たちにもそれを教えたいと話す。

「これからの世の中に必要なものは知識や情報じゃない。そんなものはパソコンやスマホに詰め込まれていますから。それをどう使い、どう動けるかのセンスを養うことが、これからの世界を生き抜く力だと思う」

●農業の道に進む学生も

 そんな関野ゼミの試みから、優秀な人材も生まれている。

「うちのゼミからは農業や炭焼きなど、第一次産業に就職していく学生が多いんですよ。ご両親は『美大に行かせたのに、なんで?』と思ってるかもしれないけれど(笑)」

 これからの時代を生き抜く力を、一皿のカレーライスが教えてくれるかもしれない。(文中敬称略)

(ライター・中村千晶)

AERA 2016年11月14日号