「どんな子どもであれ、生きている意味は絶対あるし、本人の気持ちもある。特に特殊な才能があるわけじゃなくても、その子がいるだけでまわりに与える影響ってすごくあるんですよ。私自身、そうわかるまでには時間がかかりました。でも、こういうことって、直接話す機会があったりすると、実感としてわかってもらえるんですよね」

 水戸川さんには、3人の子どもがいる。長女の恭子さん(32)は体が不自由で知的障害もある。言葉は発せられないが、感情表現は豊かだ。長男の裕(ゆたか)くん(18)はダウン症があるが、毎日バスを乗り継ぎ、特別支援学校の高等部に一人で通っている。

 取材の折、水戸川さんと裕くんのユーモアあふれるやりとりは、親子漫才のようだった。裕くんが食べていたポテトを、「分けて」とせがむ母。裕くんは仕方ないなという表情で「はいはい」。「えー、これだけ?」と口を尖らせる母を一瞥して、裕くんはニヤリ。

 水戸川さんも、2人の子どもの障害を最初から100パーセント受け入れられたわけではない。でも、今は、子育てで頼れるところは人に頼り、自身は支援活動や仕事に駆け回る。

●草の根で変えていく

 各地でダウン症のある人や家族の暮らしぶりを知ってもらう活動も始まった。

「ヨコハマプロジェクト」(横浜市)は、冊子「ダウン症のあるくらし」を発行。4千部は医療機関や市民などに行きわたる。親子で本を読む、きょうだいで野球をする、母娘で料理に励むなどの何げない日常を写し取った写真集だ。障害のある赤ちゃんを育てていくこと、学業や就労に関する情報も盛り込まれている。

 NPO法人「アクセプションズ」(東京都江東区)は、今年11月、渋谷の街中をダウン症のある人と歩く「バディウォーク東京2016」を開催予定だ。理事長の古市理代さん(47)の長男裕起くん(12)も毎年歩くコアメンバー。古市さんは、にこやかに語った。

「私たちは、ダウン症のある人のボジティブな面を知ってもらいたいと思っています。たまたま町で会った人が、『あー、ダウン症のある子も素敵なんだね』と。そういう視線がポツポツと社会に根ざしてくれれば。たとえ妊娠に不安を持ったとしても、『きっと大丈夫。生まれてきてほしい』とすっと思える人が増えたらいいですね。真の意味でインクルーシブな社会をつくることって、草の根から実現していくんじゃないかと考えています」

(ライター・古川雅子)

AERA 2016年10月31日号