竹下望(たけした・のぞみ)/2008年から現職。小学生時代を過ごしたマレーシアで医療の地域格差を痛感し、感染症医を目指した(撮影/門間新弥)
竹下望(たけした・のぞみ)/2008年から現職。小学生時代を過ごしたマレーシアで医療の地域格差を痛感し、感染症医を目指した(撮影/門間新弥)

 8月23日、フェイスブックに【麻疹に関する注意喚起】という一文が投稿された。投稿者は、国立国際医療研究センターに設置された感染症の蔓延(まんえん)を防止する専門チーム「国際感染症センター」だ。

 関西空港ではしかに感染したとみられる関西在住の19歳の男性が、8月13~15日に東京・神奈川・千葉を旅行し、14日には千葉・幕張メッセであったジャスティン・ビーバーのコンサートに出かけていたことを受けて、全国の医師に注意を促すものだった。

 はしかは「空気感染」する感染力の強い感染症だ。

 同センターに所属する12人の医師を束ねているのが竹下望医師(40)。今夏、はしかの感染拡大防止に奔走した。

 今年に入って、国内のはしか感染者は130人。昨年1年間の国内の感染者が35人だったことを考えると、不気味な数字だ。

 こんなとき、竹下さんが最初にするのは、事態を正確に把握し、最善の対策を見いだすための「場」をつくることだ。

●適切に判断するために

 医師の仕事全般に言えることだが、感染症対策は「判断」の連続。適切な判断には現状把握と、それを照らし合わせるデータベースが欠かせない。12人が集まれば、12人分の情報から現状を知り、12人分の知見をベースに対策を立てられる。

 いまできる対策は、とにかくワクチンを接種して拡大を食い止めること。世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局は日本を「排除状態」、つまり、はしかを撲滅したと認定していた。すでに全国でワクチンが不足しているが、実は竹下さんは日本未承認の「はしか・おたふくかぜ・風疹三種混合MMRワクチン」をストックしていた。

 13年に、風疹が流行したときに、竹下さんのチームは、ワクチン不足に陥り確保に奔走しながら「日曜日風疹ワクチン外来」を開設した経験があったからだ。

 発症者に成人男性が多かったため、仕事を休まずにワクチンを接種できるよう、期間限定で感染症センター内に設けた。ワクチンを接種したい人が接種できないという事態は避けなくてはならない。

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