●短期決戦から長期決戦

 長期金利までマイナスにする金融緩和など世界のどの国もやっていない。社会実験はいかがなものか、と経済界からも異論が出ていた。

 9月20、21日の金融政策決定会合は「緩和策の総括」がテーマになった。なぜ物価目標は達成できなかったのか。政策に誤りはなかったか。副作用への対応はいかに。担当部局は夏休みを返上して作業に掛かった。その結果が「新しい枠組み」だ。

 キーワードは冒頭の黒田発言にある「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」。普通の人にはさっぱりわからないが「量的・質的金融緩和」とは、“国債の大量買い入れ(量)+マイナス金利(質)”というこれまでの政策を指す。これでは目標が達成できず、業界を困らす副作用も出た。そこで「長短金利操作」が追加された。なにをするのか。

 短期金利はマイナス0.1%、長期金利はゼロ金利を目指す。短期と長期の金利に差ができれば金融機関は利ザヤを稼ぎやすくなる。政策目標を金利に置くことで、国債を買いまくる強引な緩和政策を緩める余地ができる。日銀はすでに発行済み国債の3分の1を吸い上げ、買い入れは限界に近づいていた。

「2年で2%」とした物価目標達成時期は曖昧にした。短期決戦から長期戦に切り替えた、というと聞こえはいいが、「実現を目指し」という表現で「2%」を努力目標にしてしまった。

 公約を取り消して、まあゆっくりいろいろな手を使ってやりますから、見ていてください、ということである。

「なぜ物価目標は達成できないのか」という一番大事な設問への答えはどうだったか。黒田総裁は3点を挙げた。原油価格の下落、消費税増税、中国など新興国市場の景気鈍化。いずれも日銀の手が届かない外部要因という。「三つの要因がなかったら目標は達成できたと思うか」と会見で問われた総裁は「その通りです」と答えた。

 日銀による日銀の政策点検はまな板のコイに包丁を握らすようなものだ。うまくいかなかったのは、手が及ばないところで問題が起きたから、という理屈で、総裁の責任は回避された。黒田総裁を選んだ安倍晋三首相にも責任がないことになる。(ジャーナリスト・山田厚史)

AERA 2016年10月3日号