「責任転嫁ではないか」と会見で質問が出た。黒田総裁は、原油安、消費税、中国が原因と本当に思っているのか (c)朝日新聞社
「責任転嫁ではないか」と会見で質問が出た。黒田総裁は、原油安、消費税、中国が原因と本当に思っているのか (c)朝日新聞社

 マネーをばらまけば物価は上がる、と言ったのは誰? 今度は「新しい枠組み」でやると黒田東彦総裁は言う。

「2%の物価安定目標の早期実現を目指し、安定的に持続するために必要な時点まで、『長短金利操作付き量的・質的金融緩和』を継続する」

 9月21日、日本銀行本店9階の記者会見場。黒田東彦(はるひこ)総裁は紙を読みながら「新しい枠組み」を説明した。声に張りがなく、語尾はかすれがちだ。3年半前、颯爽と登場して「2年で物価を2%上昇させる」と異次元金融緩和を発表したときとまるで雰囲気が違う。

●今や絵に描いたモチ

 約束の2年はとっくに過ぎ、物価は2%上昇はおろか、7月の消費者物価指数は前年同月比マイナス0.5%。5カ月連続で前年を下回っている。目標達成時期は何度も延期され「2017年度中」、つまり18年3月へと後ずさりしていた。

 2年という期間を設定し、市場を驚かす巨額の日銀マネーをぶち込めば物価は上がる、という筋書きは、今や絵に描いたモチとなってしまった。

 達成できない目標を漫然と掲げていれば、「日銀の言うことは信用できない」と世間は見るだろう。原価10円にも満たないお札を「1万円の価値がある」として流通させるには日銀の信用が欠かせない。問題は達成できない物価目標だけではない。苦し紛れに放った緩和策に銀行や生命保険会社などから不満が噴出していることだ。

 2月から始まったマイナス金利政策で金利全体が下降し、長期金利の基準である10年国債の金利までマイナスになった。引きずられて住宅ローンなど貸出金利がゼロ近辺まで下がった。銀行は預金の金利をマイナスにできない。預金と貸金の利ザヤで商売する銀行にとってマイナス金利は迷惑千万だ。資金の運用を国債に頼ってきた地方銀行にとっては死活問題で、生命保険会社もそれは同じ。保険料を長期国債などで運用して利益を得ている。財産を預かって運用する信託銀行や、退職金を積み立てる企業年金も困っている。

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