「一枚絵」として美しいオチビサン。カラフルで見る者を楽しませる。手仕事の温かみが伝わってくる(撮影/写真部・岸本絢)
「一枚絵」として美しいオチビサン。カラフルで見る者を楽しませる。手仕事の温かみが伝わってくる(撮影/写真部・岸本絢)

 本誌連載中の「オチビサン」が単行本として9月5日に発売される。これまでの作品とは一味違う思いを込めているという作者の安野モヨコさんに、オチビサンへの思いを聞いた。

──2007年から朝日新聞で連載していた「オチビサン」が、14年4月からアエラに場を移しスタートしました。

 鎌倉に引っ越した時期にアエラで連載しないかというお話をいただきました。1枚の美しい絵を描きたいとずっと思っていたんです。漫画は、ストーリーの面白さや読みやすいテンポを追求してしまうと、「一枚絵」としての完成度は落ちる。絵に特化した1枚を描けたらいいな、と。キャラクターはすぐにオチビサンを思いつきました。でも、最初はプンプン怒っている子をイメージしていました。当時、私自身がくたびれていたので、そんなキャラクターになったのかもしれません。

──連載を始めてしばらくは、東京で集中してハードワークをこなし、1週間くらい鎌倉に戻る生活だったそうですね。

 そんな生活をしていたから、オチビサンもチャキチャキしたキャラだったかも。鎌倉に住んでからは「緑が多いな」とか「見たことない虫がいる」とか体験すること一つひとつがうれしかった。鎌倉生活に慣れ親しんでいくうちに、キャラクターたちもスローリーに変わってきたような気がします。

●ヤモリやクモに出合う

──週刊誌の連載だけにネタ探しに苦労しそうなものですが、「ネタに困るどころか描ききれないほど」だそうですね。

 鎌倉ではそれこそ家の周りを歩いただけで、何かが必ずある。萩の花が咲いていたり、側溝に生えている葉っぱ、虫や小さな動物を発見したり。家の周りのシダだけでもものすごい種類になるんです。家の中でもヤモリやクモに出合うのは当たり前。てんとう虫がたくさんいるなと思ったら巣を作っていたり、ふてぶてしいリスが屋根を走って市街地へ遠征したり。ひどい時はリスが雨戸の小窓から入ってきて暴れている。そんなことが毎日起こるので、鎌倉にいるだけでネタに困ったことがないんです。私は、子どもの頃から爬虫類も虫も大丈夫。クモは益虫だから、「こんばんは。お世話になっています」って感じです(笑)。

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