教育費は“自己責任”

 つまりこの男性の妻は、緊急時以外の育児にお受験、そして家事をすべて“ワンオペ”で続けてきたことになる。妻が抱える育児や家事労働の果てしなさに対して、この男性はどこか他人事な印象も否めない。自分に収入がない分、文句が言えない妻の復讐では? 男性は言う。

「私だって大黒柱として必死で働いて、同期の中では出世コースです。妻が夫のキャリアを支えるのは当たり前では……」

 こうした夫婦のすれ違いは、二人目の子どもを阻む原因の一つでもある。厚生労働省の「第13回21世紀成年者縦断調査」(14年)では、子どもが一人いた夫婦のうち二人目の子どもが生まれる割合は、夫の休日の家事・育児時間が「なし」では24.2%、「4時間以上」では91.1%だ。夫の家事・育児時間が長いほど、二人目が生まれている割合が高いのだ。

 もっとも夫が手伝いたくてもできない理由もある。パタハラなど男性の育児参加に非協力的な職場、それに長時間労働だ。政府も少子化の一因と認め、今年6月に打ち出した「ニッポン一億総活躍プラン」の中で長時間労働の是正を掲げた。だが、現場に強いインパクトはない。

 働き方に加え、「二人目の壁」となるのがお金の問題だろう。メーカー勤務の女性(33)はこう話す。

「一人目を産んで、外食より公園にお弁当持参が面白いなって思った。もう一人増えたら、さらに豊かになるとも思う。でもそんな私たちが躊躇するほど、子育てにお金がかかりすぎる」

 昨年設立された「1more Baby応援団」が、今年4月に実施した調査によると、経済的な理由で二人目をためらう人は84.4%に上った。

 不安の根源は、やはり日本の教育費の高さだ。15年に発表された経済協力開発機構(OECD)の調査では、国内総生産(GDP)に占める教育機関への公的支出の割合は3.5%で、データがある32カ国中、5年連続の最下位。そのぶん、教育費は“自己責任”となるわけだ。十分な教育を与えるために、最初から一人っ子と決めていたり、二人目を諦めたりする人もいる。

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