まず骨壺に向かって深く一礼。次にステンレストレーに遺骨を移し、磁石と目視で、棺桶に使われていた釘や、故人の歯の詰め物といった異物を取り除く。

「後は、つぶしていくだけです」(甲斐さん)

 その言葉通り、乳棒で遺骨をひとかけらずつ叩いてつぶす。ある程度細かく砕けたら、直径30センチほどの乳鉢に移し、さらに乳棒で叩いて細かくし、最終的に粉末状にする。

 砂のようになった遺骨を見て、同行した本誌デスクは「きれいですね!」と感嘆の声を上げた。

 実は、高温で焼かれた遺骨には、酸化した有害物質の六価クロムが基準値の300倍近く含まれる。サライでは、骨灰専用の還元剤を作業の最初と最後に遺骨にふりかけ、環境負荷が少ないとされる三価クロムに換える。粉骨された骨は真空パックで袋詰めにして化粧箱などに入れ、依頼主の元などに届けられる。

遺族からの感謝の言葉

 それにしても、粉骨は大変な作業だ。記者も体験させてもらったが、見知らぬ人の骨を砕いていると人間の死への恐怖が生々しく伝わってきた。それでもこの仕事を続ける理由を、甲斐さんはこう話した。

「遺族からの『ありがとう』の一言。それ以外にありません」

(編集部・野村昌二)

AERA  2016年8月15日号