彼女は正社員になるために8時間労働の条件を無理にのもうとしている。管理職女性自身も3人の子どもを育てており、この件でモチベーションが下がってしまった。実際、すでに何人もの女性が退職していった。

「組織のためによかれと思って提案しても、同じ女性だから優遇したいんだろう、と取り合ってもらえない。男性が築いた仕組みの限界を感じます。このままだと優秀な働き手がどんどん流出してしまいます」

●優秀な人は脱出する

 朝日新聞社が2月に開いた「女性と企業フォーラム」でもジャーナリストの中野円佳さんが、

「優秀な女性や男性が、変わらない企業を諦めて脱出する動きが始まっている」

 と語った。それほど「活躍する」には、従来の男性中心の働き方に合わせるしかない企業が多いのが現状だ。

 先進企業のダイバーシティー担当者や専門家が女性活躍について提言したこのフォーラムのきっかけは、昨年話題になった「資生堂ショック」だった。

 資生堂は、女性の出産退職が当たり前だった状態を「第1ステージ」、両立支援制度が拡充し、育児休業や短時間勤務を取りながら仕事を続けられる状態を「第2ステージ」と呼んでいる。「第3ステージ」として、子育てしながらキャリアアップを目指せるようにする改革を表明すると、子育て中の美容部員が遅番や休日出勤をする点について賛否が巻き起こった。

 女性が出産で退職せず、育休を取得して復職する「第2ステージ」には、社会的にも到達しようとしている。2014年度の女性の育休取得率は86・6%で、中小企業でも両立支援制度は整ってきている。子育て中の社員が少なかった頃は、内勤やサポート業務に配置を替えるといった「配慮」をしてきたが、昇給や昇進は見込めなくなり、社員がやりがいを見失う「マミートラック」の問題が顕在化した。企業としても、多数を占めるようになった子育て中の社員を戦力として扱わなければ、業務が回らなくなった。「保護」から「戦力」へ。女性活躍という言葉は、そんな意味でとらえられつつある。

 女性活躍を進めるタイミングとして「育休」に注目しようと、産後ケアに取り組むマドレボニータなど3団体が5月、企業向けセミナー「女性活躍推進のレバレッジポイント」を開いた。女性は育休中も、自身のキャリアプランや会社に貢献する方法を考えているという調査結果を発表。育休の過ごし方を個人に丸投げすると、それぞれの体調や事情によって復職のモチベーションに差が開きかねないため、企業がケアし、情報や機会を提供しようというものだ。

●復帰後も営業の第一線

 外務省専門職の松本久美さん(41)は、15年1月生まれの長女(1)の育休中。米国赴任中の11年に長男(4)を出産したときに立ち上げた省内サークル「両立支援ネット」を運営している。

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