「公務員は制度の恩恵を十分受けています。そのうえで、制度を活用することによってキャリアがどうなるのか、どうしたいのかを発信し、情報共有したい。育児でキャリアを諦めたくない、と自ら声を上げなければ、周りには伝わらないのでは」

 前述の2月のフォーラムで、セブン-イレブン・ジャパン常務の藤本圭子さんは、子育て中の社員と上司とのコミュニケーションの必要性をこう指摘した。

「時間制約のある人がノルマや成果といった負荷を克服するには、覚悟が必要です。ただしその覚悟は、日頃から自分が期待されているとか、認められているという自覚や評価がないと生まれてきません」

 7月に育休から復職するメーカー営業職の女性(30)が、復帰後に担当する複数の得意先は、それぞれ車で片道2時間半ほどかかる。出産前に比べ負荷は減らない。営業の第一線から外されず、「配慮」もない。

「保育園から呼び出しがあったり、突然のトラブルで帰れなくなったりしたらどうしよう……。でも、やるしかない」

 プレッシャーだが、もし配慮されていたら「期待されてないのかな」と落ち込んだだろう。

●意識ギャップを埋める

 営業職は毎日、自宅と取引先との直行直帰で、働き方は自己裁量だ。以前、内勤を経験したときは残業ばかりだったから、むしろ営業のほうが両立はしやすそう。できる範囲で成果を出したいと思っている。

 この女性には、2人の子どもを育てながら営業を続けている先輩女性(32)がいる。相談すると彼女はハッキリと言った。

「仕事も子育ても諦めたくない。どちらかができなくなったら会社を辞めようと決めている」

 その「諦めない」ラインは明確だ。例えば、午前中に商談がある日に子どもが発熱したら、取引先に時間変更をお願いするが、日程は変えない。病院を受診して子どもの様子を見た後、午後から病児保育のシッターに預け、商談に行く。社内だけでなく取引先にも事情を説明し、

「働ける時間内にできることを精いっぱいやります」

 という姿勢を見せていた。

 この先輩は長男(5)の育休から復職するとき、会社から過度に期待されていたことが負担だった、と振り返る。復職と同時に転勤の辞令が出て、子連れで赴任した。新しい上司からは「バリバリ働くに違いない」と思われていたが、

「自分では子育てが最優先で、仕事を優先するつもりはさらさらなかった。その意識ギャップに気づくまで3カ月かかり、無理をして倒れました」

 以来、現時点での優先順位と、長期的に望むキャリアの両方を、上司にきちんと伝えるようにしているという。

「いずれ管理職になりたいけど、今は挑戦しません。その時に向けて子どもの成長を見ながら、仕事を抑えるバーをじわじわと上げている感じです」

 人それぞれ「活躍」像は違う。企業や社会が「活躍」を押し付けるのではなく、女性が自ら選び取る「活躍」を支援する。そんな改革が求められている。(編集部・小林明子)

AERA 2016年6月20日号