「ブランドをつくるのは、経営者より社員だということが分かったんです」

 そこで星野は、もう一冊の教科書に目を向ける。スタッフ教育の教科書、ヤン・カールソンの『真実の瞬間』である。

カールソンが経営していた航空会社では、スタッフが顧客と接する時間は1回あたり平均15秒。そして、それが数えきれないほど繰り返されている。その15秒がまさに「真実の瞬間」で、その時々の判断と対応が満足度のカギになる、と。なるほど、旅館業も同じではないか。

だから、「ブランドづくり」は現場に委ねた。ツールとなっているのが、冒頭で星野がパソコンでチェックしたデータで、社員はいつも20 項目をチェックして、次の一手を考える。

 先の「界 出雲」で数値が比較的低かったのは「客室の設備」と「アメニティー」。低い評価をした顧客は、「お風呂にサウナがついているといいのですが」とコメントしていた。

 もちろん、現場スタッフにサウナ設置の権限はないが、「サウナはございません、という説明を施設のホームページに加えることはできる」と星野。現場スタッフが、期待と現実の差を埋める方法を考え、瞬時に実践すること。その積み重ねがブランドにつながるのだ、と。(アエラ編集部)

AERA  2016年4月11日号より抜粋