取材したのは2月中旬。先の数字は、1月に「界 出雲」を利用した人の総合満足度だ。約半数が最高評価をつけた。宿泊から約2週間でデータになる。

 ただ、疑問も残る。宿泊業はホスピタリティーが売りものだ。「星野リゾート」のように高級施設であればなおさら。そんな会社の満足度やブランドを、数字で管理できるのか?

 そもそも、星野は自他ともに認める「教科書」好き。「もし仕事の哲学を挙げるなら、それは教科書通りにやることだ」とまで言う。例えば組織づくりはケン・ブランチャードの『1分間エンパワーメント』、戦略を練るならマイケル・ポーターの『競争の戦略』。分野ごとに教科書がある。

 ブランドについては、デービッド・アーカーの『ブランド・ポートフォリオ戦略』で学んだ。この本などを参考に、自社のブランドを四つの構成要素でとらえているという。「知られていること」「利用したいと思われること」「固有のブランドイメージがあること」「ロイヤルティーの高い顧客がいること」の四つだ。それを星野は、一つずつ順に強化しているという。

 第1ステップに着手したのは09年。どのくらい知られているか、「認知度」を競合も合わせて数値化した。メディアや口コミの力などもあり、認知度はすぐに7割を超えた。国内ではリッツ・カールトンなどと並んで「1位グループ」に入る。

 第2ステップは「利用したいと思われること」。一度足を運んでくれた顧客の満足度がキモになる。だが、これが難しかった。「星野リゾート」の名が知られるにつれ、顧客の期待も高まったからだ。期待が高いと、顧客はなかなか満足しない。第1ステップの成功が、第2ステップのハードルを上げるというジレンマ……。

 どうすれば満足してもらえるのかを考えて、古い施設を改装し、料理の食材を変え、スタッフを増やすうち、ひとつの解が見えてきた。

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