それからは「ひまわり」をずっと弾いています。コンサートに来場されたお客様には、ひまわりの種をお持ち帰りいただいているんですよ。

 僕は9年前からロンドンで生活していますので、あの震災もロンドンで知りました。ネットで津波の映像が流れてきて、信じられない思いで見たことを覚えています。異国の地で僕に何ができるのかわからず、最初のうちは有益と思える情報をツイッターで拡散することくらいしかできなかったんです。

 ほとんど寝ずにそんなことをしていたでしょうか。ふと「ヴァイオリン弾きなんだから、ヴァイオリンを弾こう」と思ったんです。地震から3日後の3月14日にロンドンの三越でチャリティーコンサートを開きました。それから毎日、デパート、教会、路上とできる限りの場所で演奏しました。

 あれから5年。当時の悲しみや衝撃など、感覚的なものはだんだん忘れていってしまうことも多いと思います。でも、あの震災は、日本の大きな傷です。東北の人だけでなく、みんなでずっと治療していかなくてはいけない傷なんです。

 僕の音楽が、少しでも元気や勇気を与えることができれば、こんなに幸せなことはありません。ただ僕は、僕のやれることをやるだけ。あの震災の記憶をなくしてはいけないと、音楽を通してアナウンスしていくことが、僕の役目の一つだと思っています。

(構成・アエラ編集部)

AERA  2016年4月18日号より抜粋