人事制度に詳しい学習院大学の今野浩一郎教授は、「日本の賃金制度はハイブリッド型でいったん決まり」とみる。欧米と違い、人材育成を企業が担う文化があるため、若いときを養成期と見なし、能力で評価するこの制度は「合理的だ」と言う。

 育児や介護などを抱え、働く時間を制限せざるを得ない「制約社員」が増えたことも、ハイブリッド型が支持される理由だ。従来の日本型制度は、定年までの時間をすべて仕事に投じる「無制約社員」を前提につくられていた。 「制約あり」の従業員は、一般職や非正規雇用として非コア業務を担う「一国二制度」方式。だが制約社員が増えると、その構造は成り立たなくなる。

「役割にお金を払う役割給のもとでなら、多様な社員が働ける。大卒男子だけでなく、女性も介護中の社員も、会社の“馬力”と考えることで、競争力も増します」(今野教授)

 日本総合研究所で労働経済を研究する山田久さんも、ハイブリッド型の賃金制度に理解を示す一方、社会人教育やキャリア形成の面では、「社会インフラが脆弱です」と指摘する。

 例えばドイツでは、定時制の職業学校が発達しており、卒業すると一定の資格が与えられる。またこれらの学校と企業の両者で人材育成を担う「デュアルシステム」などの教育インフラが整っているという。

 一方の日本は、専門性や実務経験が乏しくても、「新卒一括採用」ルートに乗れば就職できる。その半面、ドイツでは社会が担っている人材育成機能を、企業が一手に引き受けている格好だ。

 だがこれでは、自律的なキャリア形成は難しい。職種転換をしたくても、職業訓練の場は乏しく、かといって社内での配置転換をじっと待つのではあまりに他人任せだ。

 山田さんは、仕事を主体的に選ぶ手段としての「限定正社員」や、副業OKの制度を企業に求めつつ、こうも語る。

「産業別や職種別の労働組合、会社を超えた人的ネットワークなど、労働者が流動化するインフラを整えるべき。社外に選択肢をもつことで労働者全体のパフォーマンスも上がるし、なにより企業が社員に理不尽な要求をしづらくなる」

(アエラ編集部)

AERA  2016年3月21日号より抜粋