あまりの忙しさに、結婚を機に辞める同僚が後を絶たない。早朝保育や延長保育があるため、早番や遅番のシフトもある。子育てを考えると、両立が難しい。先輩保育士は、自分の子どもが病気で長期入院しても休みをもらえず、辞めた。30代の保育士はほとんどいない。園長は結婚した保育士に対して「しばらく妊娠しないでね」とくぎを刺す。結婚間近のユミさんは「このまま保育士を続けられるだろうか」と悩んでいる。

 現在、保育所で働く保育士は約40万人いるが、資格を持ちながら実際に保育士として働いていない潜在保育士は70万人以上と言われている。厚生労働省によると離職率は平均で10.3%(私営保育所は12%)。経験2年未満の保育士の割合が高く、私営では17.9%となっている。経験年数の低い保育士が多く、7年目以下で半分を占めている。

 東京都が行った「東京都保育士実態調査報告書」(2014年3月)によれば、公立や私立を含め全体の18.1%が退職の意向を示している。実際に退職した人の理由のトップは「妊娠・出産」、次いで「給料が安い」となっている。

 長年、賃金が低いことが離職の原因とされてきた。そもそも国が見積もっている人件費が低く、14年度は年額で園長が約466万円、一般の保育士で約363万円。「賃金構造基本統計調査」(14年)でも、保育士の所定内給与は月20万9800円で、全職種平均の月29万9600円と大きな差がつく。

 低賃金に拍車をかけた契機が00年に訪れた。それまで保育は公的事業として社会福祉法人が担っていたが、待機児童解消のため株式会社の参入が解禁されたのだ。保育の市場は3兆円とも見られ、ビジネスチャンスに企業が続々と参入。この6年間で300%増という勢いだ。

●月20万では無理 異業種へ転職も

 しかし、人件費の割合が高い保育事業で利益を出すには、人件費に手をつけるしかない。福祉医療機構の調べによれば、社会福祉法人が運営する保育園の収益に対する人件費比率は約7割となる。その一方で、共産党横浜市議会議員団が13年に発表した調査では、横浜市内の株式会社が運営する保育園の人件費比率は4~5割の企業が多かった。ただでさえ低い賃金設定から搾取され、保育士の賃金が低く抑えられてしまっている。

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