コーセー研究所 基礎研究室中西美樹さん(40)愛媛県生まれ。お茶の水女子大学生活科学部卒。英インペリアル・カレッジ・ロンドン修了。老化のメカニズムを探求する。2児の母(撮影/写真部・大嶋千尋)
<br />
コーセー研究所 基礎研究室
中西美樹
さん(40)
愛媛県生まれ。お茶の水女子大学生活科学部卒。英インペリアル・カレッジ・ロンドン修了。老化のメカニズムを探求する。2児の母(撮影/写真部・大嶋千尋)

 いつまでも美しくありたいと思うのは女性の常。そんな願いを、iPS細胞から叶えようとする女性がいる。

 昨年10月、化粧品メーカー、コーセーの中西美樹(40)は、世界の大舞台に立っていた。

 フランス・パリで開かれた「国際化粧品技術者会連盟(IFSCC)」世界大会。この化粧品業界最高峰の学会で、ざっと千人もの聴衆を前に、「iPS細胞」を化粧品研究に応用する下地となるような、画期的な研究成果を発表した。

「万能細胞」とも呼ばれる「iPS細胞」は、2006年に誕生した、新しい多能性幹細胞で、ヒトの皮膚などの細胞に遺伝子を入れて人工的に作られる。山中伸弥教授のノーベル賞受賞で注目された、この細胞を使った研究の知見を化粧品に応用することで、老化を防ぐことにつなげようという、長期的な研究だ。

 細胞の中の染色体の端にある、テロメアと呼ばれる「しっぽ」のような部分が短縮することが、老化の指標になると考えられている。京都大学iPS細胞研究所で作製された、同じ人の36~67歳にわたるいくつかの年齢で採取された細胞由来のiPS細胞を研究に応用。もとの細胞と「初期化」されたiPS細胞とをそれぞれ比較したところ、何歳の時点でも、テロメアの長さが回復していることが明らかになった。中西は言う。

「これは、老化の痕跡が『消去された』ということ。まだまだ基礎研究の段階ですが、皮膚を美しくさせるための重要な要素を、見つけていきたい」

 中西が化粧品会社を選んだのは、研究して自分がつくる製品を世に出せることに魅力を感じたからだ。入社した当初は、製品の開発に従事。11年に基礎研究室に異動してからは、「肌って何?」「美しさって?」と、女性の美の根源を探求してきた。

「一日でも長く美しくいたいというのは、女性に共通の願い。そこに、そっと手を差し伸べられるような仕事がしたいんです」

(文中敬称略)

AERA 2015年6月1日号より抜粋