「こどもの城」の目印は、岡本太郎作のモニュメント。1月のある週末、青山劇場での上演前には人があふれていた(撮影/今祥雄)
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「こどもの城」の目印は、岡本太郎作のモニュメント。1月のある週末、青山劇場での上演前には人があふれていた(撮影/今祥雄)

 演劇人も愛した、文化の発信地が1月末で閉じられる。老朽化が理由というが、疑問の声も多い。文化行政の貧しさが見える。

 これほど多くの人に惜しまれて閉じる劇場はそうあるまい。1985年、国際児童年の記念事業として厚生省(当時)がつくった東京・青山の「こどもの城」の閉館に伴い、1月末で併設の青山劇場と青山円形劇場が幕を下ろす。

 青山劇場では1月22日まで「さよなら!~青山劇場」と銘打ったジャニーズの舞台「PLAYZONE」が上演され、連日立ち見席の出る盛況ぶりを見せた。ミュージカル「アニー」の上演も開館の翌年から昨年まで、恒例行事だった。三谷幸喜作の「オケピ!」など話題作の上演も数知れない。

 ミュージカル公演が定着したのには、「東洋一」とうたわれた舞台装置がある。全床スライド式の2面の主舞台を持ち、主舞台そのものが入れ替わる大胆な舞台転換ができる。さらに大迫り(迫りとは床をくり抜き昇降装置を施した舞台機構)の上に、24基の小迫りが乗る。意表をつくスペクタクルな演出が可能だ。両劇場プロデューサーの一人、志茂聰明さんは言う。

「東洋どころかブロードウェーにも、世界のどこにもない大がかりで贅沢な舞台装置。日本では二度と作れないでしょう」

 演劇人にとりわけ愛されたのが円形劇場だ。客席が囲む形状の舞台は、他ではできない演出ができるとして作り手の感性を刺激した。客席と近く、どこからでも見られる舞台では役者の上手さ、下手さも丸見えになり、「役者や演出家を鍛える劇場」とも言われた。

 市民による「こどもの城」の「存続を願う有志の会」が発足し、保存のための署名は7万3千人以上集まった。署名を求め、40回近く街頭に立ってきた会の共同代表、有泉慶美さんは言う。

「大人も子どもも楽しめる本物の、ここでしかできない文化がある。閉館は時代に逆行する」

 会の賛同人の一人で俳優の八嶋智人さんは街頭署名にも参加し、ツイッターでこうつぶやく。

「閉館でなくリニューアルで良いではないか!」

 厚労省によると、閉館後については「未定」。まず人が入れないようにするために建物を覆う塀の設置などに3億円費やすという。

AERA  2015年2月2日号より抜粋