子どもを連れて女性が海外赴任――そんな新しい働き方を支える企業がある。

 午後5時に仕事を終え、長女(2)を保育園から連れ帰るとまず、週末に作り置きしておいた食事を温める。電話会議がある日はベビーシッターに来てもらい、自宅から参加。午後9時半に長女を寝かしつけ、余力があれば家事や残務を片付ける。

 一見、ワーキングマザーの日常のようだが、彼女の働き方はかなり「型破り」。なぜなら、大手商社の海外駐在員として子連れ赴任しているからだ。

 住友商事の加古紗理さん(31)は2014年、夫を日本に残し、長女を連れて米フロリダの子会社に赴任した。主な業務は経営管理。米国人300人の会社に出向する日本人は上司と加古さんの2人だけだ。

「商社の駐在員たるもの、24時間臨戦態勢であることは常識でしたが、子育て中の私には現実的に難しい。期待される役割と、自分ができることとをどうすり合わせていくか。責任と重圧を感じながら、新しい働き方を模索しています」

 住友商事には14年12月現在、子どもだけを連れて海外で働く女性社員が加古さんを含めて3人いる。海外駐在員は全体で約千人で、うち女性は51人。子連れは少数の中の少数だ。加古さんも14年1月に打診を受けた際は単身赴任を覚悟していた。ところが会社は、子どもだけを連れて海外赴任する社員の支援制度を整備していた。

 引っ越し荷物の重容量を増やす、子どもの渡航に付き添う大人の航空運賃を補助する、日本での保育費用との差額を補助するなど、サポートは細部にわたる。人事厚生部の本山ふじか課長はこう話す。

「制度化に踏み切ったのは、子育て中でも海外赴任の道があるという共通認識を社内でつくるため。上司のためらいが軽減され、後輩も続きやすくなることに制度の意義があります」

 もともと海外駐在は男性社員を想定し、単身赴任と家族帯同の2パターンの制度だった。家族帯同は配偶者の同行が前提で、引っ越し荷物の重容量制限も、本人7立方メートル、配偶者18立方メートルと、「家族=妻」という考え方。配偶者を日本に残して子どもだけを連れていくと単身赴任扱いで、制度からはこぼれ落ちていた。加古さんら女性社員のニーズもくんだ制度は14年11月から実施。加古さんにもさかのぼって適用された。

「会社が応援してくれて心強い。同時に、子連れは大変だから、という甘えは許されないと覚悟が決まりました」(加古さん)

AERA  2015年1月19日号より抜粋