いきいきらいふSPA内装はバリ島のイメージ。将来、テーブルとイスで育った世代が増えることから、畳ではなくソファに座るスタイルにした(撮影/編集部・鳴澤大)
いきいきらいふSPA
内装はバリ島のイメージ。将来、テーブルとイスで育った世代が増えることから、畳ではなくソファに座るスタイルにした(撮影/編集部・鳴澤大)

 東京都中野区にある「いきいきらいふSPA中野新橋店」。20畳ほどの店内は、バリ島をイメージした家具で統一されている。男性Aさん(85)は、すっかり満足した様子で言う。

「あー、さっぱりした。マッサージしてくれ、手話も利用者仲間から習える。殿様気分だね」

 まるでサウナのようだが、違う。「入浴専門3時間デイサービス」だ。Aさんは以前、終日過ごせる介護サービス施設を利用していたが、「長いし、カラオケで歌わないといけないのが嫌」で、ここへ通い始めた。

 5人いるスタッフは、家具と色調をあわせた茶系のポロシャツ姿。言葉も独特で、施設のことを「お店」、利用者のことを「お客様」と呼ぶ。

 来店後はメニューからウエルカムドリンクを選ぶ。入浴は1人約30分。テーブル付きソファで談笑したり、マッサージを受けたり、自由気ままだ。

 この店を運営するのは、「いきいきらいふ」(東京都台東区北上野)。2002年に会社を設立して訪問介護事業を始め、SPAは09年から展開している。

 左敬真(ひろまさ)社長(37)は、工学系大学で都市設計を専攻したが、転機は大学院生のときに訪れた。特別養護老人ホームを訪問して衝撃を受けた。施設内におしっこの臭いが漂い、白い壁の廊下を、わびしく歩いている入所者の姿…。「これでは悲しい」と思った。

 一念発起して起業。利用者が楽しめ、若者も働きたい施設を考えた末、たどりついたのがSPAだった。利用者負担は1割だが、国の補助などがあるため、「お客様」が1回「来店」すると、約5千円(要介護1)入る。

「ディズニーランドと比べても遜色ないお金をいただいている。それに見合った価値を感じる場所にしたい」(左さん)

 SPAは現在、フランチャイズを入れて計34店(準備中の店を含む)を全国展開。13年の利用者は計1万1964人。

 ただ、南国風で統一されたSPAにあって、一つだけ“ふつう”の場所がある。浴室だ。

「どの家庭にもあるユニットバスです。家でも一人で入れるようになるのがゴールなので」

 体の洗い方や服の着脱などを訓練し、そのデータを蓄積しているという。

「高齢者に多い風呂場での事故を減らしたい。その仕組みづくりを始めているんです」

AERA 2014年10月20日号より抜粋