米国では前立腺がんに対する手術に関して2008年末に80%以上でダヴィンチが使われているという。世界の納入実績は、12年末の段階で米国で約1800台、ヨーロッパで約400台、アジアで190台 (c)朝日新聞社 @@写禁
米国では前立腺がんに対する手術に関して2008年末に80%以上でダヴィンチが使われているという。世界の納入実績は、12年末の段階で米国で約1800台、ヨーロッパで約400台、アジアで190台 (c)朝日新聞社 @@写禁

 高齢男性がなりやすい前立腺がん。患者数は急増している。一方で最近では治療法も進化しており、患者の負担が少ないロボットによる手術なども行われている。

 近年増加の一途をたどっている前立腺がんは、特徴的な症状がないことに注意が必要だ。

「前立腺はいらない器官だから、がんになれば切ればよい」という誤解もある。男性固有の生殖器で、クルミ大の大きさの前立腺は膀胱の下部に尿道を囲むようにあり、前立腺を貫通する形で尿道が通る。精液の活動源の栄養分や精子を保護する物質を分泌し、生殖に大きな役割を果たしている。

 前立腺は骨盤の一番深いところにあり、周辺には血管や神経が複雑に走る。手術は恥骨と膀胱の隙間から覗き込むように行うので、非常に視野が悪く、根治のための全摘出手術が難しいとされてきた。

 最近、急速に普及しているのが、手術支援ロボットの「ダヴィンチ」(米国製)だ。日本では2009年に国に承認され、10年春から販売されている。国立大学病院や拠点病院などで導入され、輸入代理店のアダチ(大阪市)によれば、「国内は累計で130セット程度」と言う。

 ダヴィンチは人間の手よりも細かな動きができる。「出血量が少なく、術後に尿失禁などの合併症を起こす割合も少ない」「鮮明な画像でより緻密ながんの除去手術ができる」と、病院から評価されているという。

 手術では、腹部に数カ所の穴をあけ、そこからカメラと手術用の鉗子(かんし)を挿入し、座席に座った医師が、内視鏡が映し出した鮮明な3次元の立体映像を見ながら、アームを「遠隔」操作する。鉗子を人間の手より広く動かせるため、患者の負担を減らせるとされている。

 導入当初は健康保険の適用外で、前立腺全摘除術では約130万円程度の費用のほぼ全額を患者が負担した。昨春に手術・入院費に健康保険が適用され、患者負担が3割の場合は、約42万円程度が一般的だ。

 ただ、問題点もある。機械だけでも3億円以上もする。病院や輸入代理店の話を総合すると、減価償却の期間は5年から6年が一般的だ。「非常にお金がかかる。1手術ごとの消耗品で約40万円、さらにメンテナンスの費用もかかる」という声もある。

 急速な普及により、結果的には、「全国でダヴィンチ手術が受けられる状態だが、手術が必要な患者はそんなにはいないのでは」という見方もある。

AERA 2013年9月23日号