野田政権が「2030年代の原発ゼロ」を目指す新たなエネルギー政策を打ち出した。柱となるのは、運転開始から40年たった原発は廃炉▽原子力規制委員会が安全確認した原発は再稼働させる▽原発の新増設は行わない、という3原則だ。

 しかし、この「公約」はいきなり反故にされかねない危うさをはらむ。東日本大震災の発生前から建設が進んでいた原発をその対象とするかどうかの判断が、宙に浮いたままだからだ。

 該当する原発は3基。中国電力の島根原発3号機(松江市)、電源開発の大間原発(青森県大間町)、東京電力の東通原発1号機(青森県東通村)だ。震災前、国内には14基の建設計画があったが、この3基はすでに工事が始まっていた。

 これに野田佳彦首相は今年3月の参院予算委員会で

「(建設が)九十何%だか進んでいる場合もあるので、個々の進捗(しんちょく)を踏まえて判断するケースはありうる」

と答弁している。

 煮え切らない政府の態度を、電力業界の関係者はこう読む。

「国策で推進してきた原発政策を『ゼロ』に百八十度転換しようとすれば、当然、代償も伴う。政府は電力会社の逆襲を恐れているのではないか」

 3原発について、設置許可を出したのは自民党政権だったとしても、民主党はそれを追認した。それどころか、「2020年に温室効果ガスを1990年比で25%削減」という強烈な温暖化防止目標をぶち上げ、クリーンなエネルギーとして原発増設の旗を振った。電力各社には、国策に背中を押されたからこそ巨費を投じ、建設を進めてきたとの思いがある。

「それを一方的に中止せよ、と命じられたら、一気に損失となり、経営には大打撃。実質国有化された東電はさておき、中国電力と電源開発に『これまでの投資分を賠償してください。こちらにも株主がいますから』と主張されてもおかしくない」

 原発の建設費は1基約5千億円といわれる。ほぼ完成済みの島根3号機を始め、賠償額は巨大になる。その穴埋めに税金を使えば、国民の不評を買い、支持率低下となってはね返るのでは──。そんな「弱腰」から、政府は電力会社に対し強気に出られない、との見立てだ。

AERA 2012年9月24日号