また、今回のツアー期間には、想定外の出来事もあった。32年ぶりにオリンピックへの出場権を勝ち取った水球日本代表チーム「ポセイドンジャパン」から応援ソングの依頼を受けたのだ。逼迫(ひっぱく)するスケジュールのなか、吉川は楽曲制作に臨む。こうして完成した「Over The Rainbow」は、吉川にしか表現し得ないものとなり、東京体育館でのファイナル2日間のみ、アンコールの1曲目として披露された。

 アンコールのラストを飾った「Dream On」も映画の主題歌として作られた曲であり、その点では「Over The Rainbow」と通じるものがあるのだが、それぞれ、オーダーに応えつつも、見事なまでに「吉川晃司らしさ」にあふれているのが素晴らしい。吉川がもともともっていた人生観に加え、近年のさまざまな経験が血肉となり、作品にいい形で反映されているのだろう。そして、それを表現する歌声にも、磨きがかかっている。ボーカリストとして、音域が広がり、声量も増しているいま、ようやくイメージに近い形で“歌える”ようになってきた、というのが本人の弁だ。

 こういったあらゆる要素が相まって、冒頭に挙げた「いい年齢の重ね方」という印象につながっているように思う。ビジュアル面だけではなく、技術や内面的な部分での成熟も感じられるからこそ、吉川へ熱い視線が集まっているのだ。「ブレない」と評すれば「ガキのままで、変われないだけ」と答え、「こんな吉川晃司が見たい」と期待を寄せようものなら「俺はひねくれ者だから」と、それを敢えて裏切っていく。だが、それは案外、現代を生きる人々が「こうありたい」と望みながらも決して簡単にはたどり着けない、新しい「理想の大人像」ではないだろうか。そう言ったら、これもまた、本人は笑って否定するに違いないけれど。(取材/用田邦憲)

※アエラスタイルマガジン33号より抜粋