「毒」は身のまわりに溢れている... 書籍『毒 青酸カリからギンナンまで』から見たヒトと毒の関係

2020/12/15 19:00

『毒 青酸カリからギンナンまで (PHPサイエンス・ワールド新書)』船山 信次 PHP研究所
『毒 青酸カリからギンナンまで (PHPサイエンス・ワールド新書)』船山 信次 PHP研究所


「毒は決して私たちの生活から乖離しているものではない。実に密接に付き合ってきているといえる」(同書より)
 上記の言葉は、船山信次氏の著書『毒 青酸カリからギンナンまで』(PHP研究所)に掲載されていたもの。「毒」といえば青酸カリやトリカブトなど、普通に生活していたら一生縁のない存在のように感じるだろう。だが同書によると、毒は身のまわりに溢れているとのこと。
 たとえば家庭で使われる洗剤も、使用を誤ればたちまち私たちの命を脅かす存在になり得る。他にも殺虫剤や除草剤などはもちろん、アドレナリンやインスリンといった体内に存在する物質でさえ同様のことが言えるそうだ。
 遠い存在のようで、じつは身近である「毒」。私たちと毒の関係性はどのように成り立っているのか、今回は知られざる毒の世界に注目してみよう。
 まず同書は全7章で構成されており、第1章では「毒についての基礎知識」が掲載されている。すぐに効く毒やじわじわ効く毒といったさまざまな項目が並ぶ中、特に興味を引かれたのが「世界最強の毒」。
 そもそもみなさんは、毒の強さがどのように示されるかご存じだろうか。一般的に毒の強さは「LD50(エル・ディー50)」と表記されるそうで、同書には次のように綴られていた。
「LD50とは半数致死量(lethal dose 50%)の略であり、この量を投与すれば、投与された動物の半数が死ぬと予想される量である。この値は、たとえば、『LD50が20mg/kgである』のように使用され、ある動物に1kgあたり20mgを投与すると、その投与された動物の半数は死ぬという推定を示す。したがって、この値が小さいほど、毒性が高い」(同書より)
 体重60kgのヒトを例に挙げると、LD50が20mg/kgということは20(mg)×60(kg)=1200mg。つまり1200mgの投与で50%の確率で死ぬ計算になる。もちろん動物種や投与方法によって毒の効き方も変わってくる。
 これまでに知られている毒性の強い物質は以下の通り。
・ボツリヌストキシン 0.0003(μg/kg)
・殺傷風トキシン(テタヌストキシン)0.0017(μg/kg)
・バトラコトキシン 2(μg/kg)
・ウミヘビ毒 100(μg/kg)
・サリン 420(μg/kg)
・コブラ毒 500(μg/kg)
・青酸カリ 10000(μg/kg)
 ボツリヌストキシンや殺傷風トキシンは微生物由来の毒で、バトラコトキシンは矢毒ガエルが持つ毒。ウミヘビ毒は文字通り、ウミヘビが持つ神経毒である。確かウミヘビの毒といえばハブの数十倍の威力を持つと記憶していたが、まさかサリンやコブラ毒を大きく上回るとは...。100(μg)×60(kg)=600μgの投与で致死率50%。生涯を通してウミヘビには絶対に出会いたくない。
 そして何より衝撃だったのが、化合した化学物質よりも天然物のほうが遥かに毒性が高いこと。特に微生物が産生する毒性の数値には驚かされた。もはや青酸カリがかわいく見える。
 とはいえ上記の毒はそこまで身近ではない分、現実味に欠けるのが正直なところ。本当に怖いのは、普段何気なく食べているものが「毒」だった場合ではないだろうか。
 たとえば第4章では、ギンナン(銀杏)の毒性について書かれている。ギンナンとは、よく茶わん蒸しなどに入っているアレのことだ。多くの人が何度か食べたことがあるだろう食材だが、大量のギンナンを食べて痙攣を起こしたという事件はじつは多いらしい。
「健常成人においても、41歳の女性が、ギンナン60個を食べて、4時間後から吐き気、嘔吐、下痢、めまい、両上肢の振戦、悪寒が出現、救急搬送された例がある。この女性は『ギンナン中毒』と診断され、リン酸ピリドキサール(ビタミンB6)の経口投与で症状が改善したという(宮崎大他、日本救急医学会雑誌、2020年、21巻、956頁)」(同書より)
 また、食べ物ではないものの、タバコの誤食についても触れておきたい。タバコに含まれるニコチンはかなり毒性の高いものであり、幼児が口にすると危険なものの1つに数えられている。一体どのような症状が出るのかというと、まず起きるのが中枢・末梢神経の興奮。次いで強直性の痙攣を引き起こし、最悪の場合は呼吸停止と心臓麻痺によって死に至ることも。ちなみに小児ではタバコ約1本、成人でも約2~4本分のニコチンで命が危ないという。
 こうして見るだけでも、どれほど毒が身近なものであるかが見て取れる。同時に我々が考える「毒」がいかに氷山の一角で、いかに毒を毒と認識していないかがわかるだろう。
「毒は決して私たちの生活から乖離しているものではない」(同書より)
 今なら冒頭で紹介した一文の意味がよくわかる。

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