コロナ禍の今読みたい!"ひめゆり"だけじゃない沖縄戦75年目の真実、国家による壮絶マラリア禍 〈BOOKSTAND〉|AERA dot. (アエラドット)

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コロナ禍の今読みたい!"ひめゆり"だけじゃない沖縄戦75年目の真実、国家による壮絶マラリア禍

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 6月23日は「沖縄慰霊の日」。日本国内で唯一、一般住民を巻き込んで激しい地上戦が行われた沖縄県では、県内各地で慰霊祭が営まれます。今年は戦後75年目を迎えますが、新型コロナウイルスの影響により、簡素化や開催中止を余儀なくされています。
 沖縄戦と言えば、「鉄の暴風」と呼ばれる空襲や艦砲射撃の被害、ひめゆり学徒隊や集団自決の惨劇が広く知られていますが、八重山諸島で起こった「戦争マラリア」についてはあまり知られていません。
 そんな知られざる惨劇の実相に肉薄したのが、ルポルタージュ『沖縄「戦争マラリア」-強制疎開死3600人の真相に迫る』です。著者の大矢英代さんは、フリージャーナリストでドキュメンタリー映画監督。本書で第7回「山本美香記念国際ジャーナリスト賞」の奨励賞を受賞しています。
 本書によれば、当時の波照間島では、マラリア有病地の西表島へ疎開したことで、住民人口の3分の1に相当する552人もの人々が死亡。米軍の空襲や爆撃で命を落としたのではなく、日本軍の命令でマラリア有病地へ強制移住させられたことにより、多くの住民がマラリアに罹患し、八重山諸島全体では3600人以上もの住民が命を奪われたのです。
 それにしても一体なぜ、八重山諸島の人々は、マラリアに罹る危険性を知りながらも、軍の移住命令を受け入れ従ったのでしょうか?
 実は、波照間島の強制疎開を直接指揮したのは、本土からやって来た山下虎雄という青年。山下は軍のスパイ養成機関「陸軍中野学校」出身であり、住民を統制しゲリラ戦を担当する「離島残置諜者」の密命を帯びていました。住民を懐柔した上で自身の監視下に置き、島の警察官や村長・村議会議員も従え、住民を疎開させたのです。また、軍国主義教育を受けていた国民にとっては、軍命は絶対であり、移住命令に反対する術を知りませんでした。。
 命令の背景には、日本軍の作戦遂行上、一般住民の存在が妨げになったこと、捕虜になった住民が米軍のスパイとして利用されることを恐れたとも言われます。著者は強制移住の経緯や、山下の人物像を調べる中で、自分自身に問いかけます。
「もし、私が当時、彼の立場にいたら、どんな行動を取っていただろうか」(本書より)
「私も、もしかしたら彼と同じ行動を取っていたかもしれない」(本書より)
 骨の髄まで軍国主義教育に染まっていた25歳の山下にとって、大本営の命令に従う以外の選択肢はありませんでした。そういう意味では、山下も犠牲者の一人であると言えるかもしれません。本書「おわりに」で、著者は以下のように読者に問いかけています。
「私たちの日常生活を見れば、様々な場面で私たちは『従属』している。職場ではやりたくない仕事も、『上司の指示だから』とやらざるを得なかったり、理不尽だと思っていても『社会のルールだから』と従ったりする。意識の有無を問わず、私たちの自己決定は必ず外的要因に左右されている。75年前の日本軍からの『命令』であれ、現国会が次々と生み出す『法律』であれ、今後起こり得る自衛隊からの『協力』であれ、絶対的な権力を振りかざされた時、私たちは―あなたは、私は―果たして、どこまで抗うことができるのか」(本書より)
 最終章「なぜ今、戦争マラリアなのか」では、現在進行形で起きている八重山諸島への自衛隊配備問題にも言及し、沖縄戦の問題が今もなお終わっていないという事実を浮き彫りにする本書。コロナ禍では「自粛警察」による相互監視が問題視されましたが、再び同調圧力の空気が蔓延しつつある現代日本に生きる私たちにとって、今読んでおくべき一冊と言えるでしょう。


(記事提供:BOOK STAND)

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