任意継続は健康保険の資格喪失日から20日以内に手続きする必要があり、最近は離職の際に任意継続と国保の保険料の予想額を提示してくれる会社も多い。自分の収入や所得、扶養家族などを入力するだけで試算、比較が可能なウェブサイトもある。

 実はもう一つ、子どもが福利厚生の充実した大企業の健康保険に加入していれば、その被扶養者になるという奥の手もある。大沼さんは、リタイア後の年金収入が180万円未満で、なおかつ同居の場合は子どもの収入の半分未満、別居の場合は仕送りより少ないという扶養の条件をクリアしているのであれば、扶養に入ることを勧める。

 被扶養者は保険料負担ゼロで保険診療を受けることができるが、それだけではない。仮に年金収入が175万円だとすると国保の高額療養費の限度額は5万7600円、住民税非課税世帯では3万5400円(いずれも70歳未満の場合)になるが、給付の手厚い健康保険なら、これを下回ることもある。さらに、健康保険組合によっては被扶養者も5千円程度の負担で人間ドックを受診できるなど利点が多い。

 ただし、健康保険組合の財政悪化により、近年は収入証明の書類の添付が必須となるなど、高齢の被扶養者の認定は厳しくなっているという。また、被扶養者は毎年資格の確認が行われ、条件を満たさないと直ちに扶養削除の手続きが取られる。

 気を付けたいのが、被扶養者の収入基準には離職後に受け取る失業給付も含まれることだ。相対的に有利となる雇用保険の失業給付を手にするために、高年齢求職者給付金制度に移行する前の64歳のうちに離職する人もいることだろう。この場合、「基本手当日額5千円以上(60歳以上の場合)の失業給付を受給すると、年間収入が180万円以上とみなされ、受給期間中は被扶養者になれない」(鈴木さん)。

(ライター・森田聡子)

週刊朝日  2021年9月10日号