企業内研修を手掛ける一成FP社会保険労務士事務所代表で社会保険労務士の鈴木一成さんによると、鈴木さんの担当する企業では「長く加入してきた制度への安心感もあり、定年後や再雇用の途中も含め離職する人の大半が任意継続を選んでいる」という。

 任意継続に加え、「従業員数700人以上の大企業、または同業種の企業による組合員の合計が3千人以上」で厚生労働省から認可された健康保険組合には、老齢厚生年金や特別支給の老齢厚生年金の受給開始時から75歳になるまで加入可能な「特例退職被保険者制度」もある。こちらも任意継続と同様、傷病手当金と出産手当金を除く会社の健康保険の付加給付やサービスを享受することができる。

 任意継続の保険料が(1)退職時の標準報酬月額(毎年4~6月の賃金の平均額を50等級の標準月額表に当てはめたもの)と、(2)全組合員の平均標準報酬月額のどちらか低いほうをベースに算出されるのに対し、特例退職被保険者制度の保険料は「全組合員の平均標準報酬月額の範囲内で組合規約によって定められた額」がベースとなり、多くはこちらのほうが有利になる。ただし、特例退職被保険者制度のある健康保険組合は全体の4%程度に過ぎず、該当者は限定されそうだ。

 ひと昔前までなら、任意継続や特例退職被保険者制度が断然お得と言えた。しかし、近年は保険料収入が伸び悩む中、2008年に施行された高齢者医療制度による拠出金の負担が重くのしかかり、解散に追い込まれる健康保険組合が増えている。近い将来、保険料が見直され、付加給付や健診などのサービスが縮小される可能性は小さくない。2年が上限の任意継続ならともかく、特例退職被保険者制度はいったん手続きしたら原則75歳まで10年間加入し続けるのだから、一抹の不安が残る。

 しかも、現役時代の保険料は会社と折半されるが、任意継続や特例退職被保険者制度の保険料は全額自腹だ。リタイア後の収入次第では、前述の男性のように国保のほうが保険料負担は軽くなるかもしれない。総合情報サイト「オールアバウト」で貯蓄ガイドを務めるファイナンシャルプランナーの大沼恵美子さんは、「リタイア後の収入で国保の保険料の軽減が受けられるかどうかが目安になる」と話す。

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