故郷を出て東部の大学へと飛行機で飛び立つ主人公。窓の外から見える、白いフォード・サンダーバード……
「その情景がパッと浮かんで。白いクーペが海沿いのカーブを曲がると夏が終わる……そんなイメージが湧いてきました」
大名曲が完成した余韻のまま、「まだ使っていない、お気に入りのシーンがある。ウルフマン・ジャックのラジオのシーンだ」と、「涙のリクエスト」は誕生した。
「こういうふうにテーマさえ決まっちゃえば早いんですよね。そのテーマを決めるのが大変なことが多い」
テーマがはじめからある程度決められている曲もある。ラッツ&スターの大ヒット曲「め組のひと」(83年)がそのひとつだ。
「『め組のひと』というタイトル自体が資生堂の化粧品のキャッチコピーでした。CMありきの曲で、絵コンテを見ると、15秒で1回、30秒で2回『め!』と入れてくださいと。“め組”という江戸のお祭りのイメージ。そこから江戸情緒ということで、『いなせ』『粋』といったフレーズをちりばめて、『めッ!』で締める。これが2行ずつで4行、8小説、そういうふうに作っていきました」
「涙のリクエスト」や「め組のひと」のように、詩を先に作ることも多いが、意外に思われるのが、郷ひろみの「2億4千万の瞳-エキゾチック・ジャパン-」(84年)だという。
「よく思われるんですよ、メロディがあって、『ジャパーン!』とはめ込んだんだろうと(笑)。詩先で、“エキゾチック・ジャパン”と書いたら、ああいうふうな仕上がりで。あれこそ(作曲の)井上大輔さんの腕だよね。すげえな、お見事だな、職人技だなとうなりました」
荻野目洋子の代表曲、「六本木純情派」(86年)。これはメロディが先にあった曲だった。
「少し懐かしいというか、オールディーズっぽいというか、エイトビートのマイナーなメロディで。こういう歌謡曲的なメロディには、街の名前や情景を盛り込んでいく詩がよく似合う。打ち合わせの場所が六本木でしたので、すぐ六本木に決まりました(笑)。六本木というと、当時は遊び人の街というイメージもあったので、そこに一番遠そうな概念、“純情”を組み合わせようと『六本木純情』に。そうしたら、『複数形にして、個人の話から複数の話の歌にしたほうがさらによくないですか?』という、ディレクターの意見を採用して、『六本木純情派』に決まりました。『六本木純情』のままだったらそれほどヒットしなかったかもしれないね(笑)」