映画「波紋」は、5月26日からTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開(c)2022 映画「波紋」フィルムパートナーズ
映画「波紋」は、5月26日からTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開(c)2022 映画「波紋」フィルムパートナーズ

 そんな磯村さんが、撮影現場で“女性の怖さと強さ”に震えた映画が、5月26日に公開される。映画「波紋」は、荻上直子監督のオリジナル最新作にして、監督自身が歴代最高の脚本と自負する、歪な日本社会の縮図を描いた“絶望エンターテインメント”だ。夫も息子も去った家で、新興宗教に頼りながら生きる依子の元に、突然、失踪した夫・修が戻ってくる。がんになった修は、依子に高額な治療費の援助を求めるが、依子はデリカシーのない振る舞いをする修に殺意すら覚えていた。ある日、遠方で就職していた息子の拓哉が恋人を連れて帰ってくるが、その恋人は、聴覚に障害を抱えていて……。依子を演じるのは筒井真理子さん、修役に光石研さん。磯村さんは、恋人と手話で会話する息子の拓哉を演じた。

「今回の僕の準備としては、手話がすべてだったと思います。形から覚えようとするとなかなか頭に入ってこなかったので、アクションを学ぶように、その動きの成り立ちから覚えていくようにしました。いちいち、『どうしてこの動きになったんですか?』と聞くので、手話の先生にとっては、面倒な生徒だったかもしれないです(笑)」

 恋人役の珠美を演じた津田絵理奈さんは、先天性の難聴障害がある。映画には、新興宗教にすべてを預け、自分の思考を停止して生きる女性も登場するが、珠美は身体にハンデを持ちながら、自分の力で幸せをつかみに行こうとする気持ちの強さを持っている。

「珠美ちゃんのキャラクターの強さは、すごくリアリティーがあって魅力的です。キムラ緑子さんや江口のりこさん、平岩紙さんら宗教団体側の登場人物も、母である依子さんのパート仲間で、『夫に仕返ししてやりな』と促す木野花さん演じる水木さんも、僕は直接の共演シーンはないんですが、みんなどこか不気味でたくましい。見たこともないような、ユーモアと毒が入り交じったキャラクターがそろっています。光石さんと僕が現場で『怖いね、怖いね』ってずっと言っていたように(笑)、たぶん男性がこの映画を観たらシンプルに『女性は怖い』って感じるんでしょうけど、それと同時に、なぜ彼女たちがそういう生き方を選んだのか、心の中に“波紋”が広がると思うんです」

 依子の上には、たくさんの絶望が降りかかるが、最後に解き放たれた感情は、それを観た人にとてつもない爽快感を運ぶ。

「今回は、今までの荻上監督の映画にはなかった演出もあって、映像的にもエッジが利いているんですが、何よりも人物の描き方に監督ならではの視点がありました。現場でも『そこでちょっとエネルギーを足して』というようなディレクションをされるのが、すごく新鮮で的確でした。本当に僕たち俳優のことをよく観ているし、アイデアも豊富で、まだまだやりたいことがあるんだろうなと感じました」

(菊地陽子 構成/長沢明)

週刊朝日  2023年5月26日号