まっさらな心になって、世界にあふれる素晴らしい「音」を受け止め、発信し届けていく。そういう思いに突き動かされ、山口さんの旅は始まった。
「未来に自慢したい、もしくは宇宙人に自慢したい、今の地球の素敵な映像と音のライブラリ。自分のプロジェクトとして動くことで、映像や音の権利なども含めて自分で管理することができることで、あのとき記録してもらった映像や音はどこにいったんだろう、ということもなくなる。このかたちにしたことで、たくさんの映像や音を集めることができたと思います」
ここ数年のコロナ禍により、海外への渡航が難しい時期があったことが、10年間で集めた膨大な資料や素材について一度振り返り、整理することへとつながった。
「ここで一度立ち止まって、空気を吸って考えてみなさい、ということなのかなと思うようになりました」
訪れた26カ国の中には、それまでは行こうと考えたこともなかった国や地域もたくさん存在したという。
「音というものにいざなわれ、この音、リズムがあるのなら、この音楽文化があるのならと、ちょっとのぞいてみようかなという思いですね。たとえば南インドがそうなのですが、それまでは自分は行かないだろうなと思っていた国なのに、音に誘われ訪ねたことで、南インドの音楽文化とは神への祈りであり、生きていることへの感謝であり、誰もがそれを持って暮らしているという素晴らしい文化なのだと知ることができました。食文化も素晴らしいですよね。壮大で果てしない文化がそこにあります。それまでの頭で知識を受け取る行為は、ときに素敵な世界への広がりをとざしてしまうものなんだな。そう感じたのが南インドへの旅でした」
特にもう一度訪れてみたいと思う国・地域は、北極圏だという。
「過酷な自然条件のもと暮らす人たちが自然に感謝し、自然を生かしながらいかに幸せに生きていくかという秘密、秘伝のようなものが生きていて、自然に対してのセンサーが敏感で豊かなんだと感じたとき、今の地球でエネルギーを無駄にしまくる先進国と称する国の人たちは彼らから学ぶべきではないか、そういうふうに感じました」