山口智子さん(事務所提供)
山口智子さん(事務所提供)

 俳優・山口智子さんが自身のライフワークとして10年にわたり取り組んできたプロジェクト、「LISTEN.」。

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 世界の音楽、音、そして映像を通してそれぞれの地域の素晴らしい文化を、音楽映像ライブラリーとして、「今と未来を繋ぐ地球のタイムカプセル」として未来へ届けるという思いを込めたもので、10年で世界の26カ国をめぐり、250を超える曲を収録、約2万枚の写真を記録した。その旅の模様はテレビで31エピソードが放映され、最初の5年間をまとめた映画も製作された。

 そして今回、このプロジェクトが一冊の書籍として、山口さんから届けられた。これまで訪れた世界各地の美麗な写真と文章がぎっしり詰め込まれた600ページを超える大ボリューム。そのタイトルは、言うまでもない。「LISTEN.」だ。

 真っ白なカバー。表紙や背表紙には、タイトルと、著者である山口智子さんの名前が控えめな大きさで記されているだけという、ごくシンプルなデザインだ。単行本によくある、「帯」も、この本には存在しない。山口さんは本誌のインタビューに、

「表紙には何の説明も帯もつけず、『LISTEN.』のみにさせてください。そうお願いしました」

 と、書籍版の「LISTEN.」に込めた思いを語り始めた。

「削ぎ落としていいものは、削ぎ落としてもいいのではないか。もちろん、帯というものが必要なこともたくさんあると思います。だけど、どうしてすべて右にならえで、必ず帯をつけなければならないのか。そうでないと買ってもらえないのか、書店で平置きにしてもらえないのかという、慣習のようなものへの反抗心もありました(笑)」

「LISTEN.」より(C)Twin Planet Communications,Inc.
「LISTEN.」より(C)Twin Planet Communications,Inc.

 帯に書かれがちな推薦文やキャッチコピーが、その本から広がるイマジネーションを狭めてしまう結果になることもある。

「それは映像業界、テレビ業界も似たところがあって。自分が映像や音声を受け止めて何かを感じる前に、字幕やテロップが出ることがある。映像から感じる余韻のようなものが、どんどん締め出されているのではないかという息苦しさも感じていました。そんなとき、余計な情報を削ぎ落とし、そこにある音に耳を傾け、シンプルな心に立ち返ることが必要だな、そう強く思ったところから『LISTEN.』のプロジェクトはスタートしました。まっさらな気持ちで心を開き、国境や言葉や文化の壁を越えて運ばれてくる余計な装飾や嘘のない音、それらを聞くことによって、また一歩踏み出す勇気がわいてくる。そういう流れにとてもゾクゾクしました」

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自分のプロジェクトとして動いたからできたこと