西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)さん。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「がんに負けない人」。

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【からだ】ポイント

(1)がんとの戦いでは、からだへの対応がすべてではない

(2)こころといのちがしっかりしている患者さんがいる

(3)がんに負けない患者さんの中には生と死を超えた人も

 これまでにも何度か説明してきていますが、ホリスティック医学では、人間をまるごととらえるときに、からだ(体)、こころ(心)、いのち(生命)の側面からアプローチします。がんはからだだけの病気ではなく、こころやいのちにも深くかかわりがある病気です。ですから、従来の西洋医学のやり方では、対応しきれません。そこで、ホリスティック医学の出番になります。

 ホリスティック医学の立場からすると、がんとの戦いで、からだへの対応は大事ですが、すべてではありません。こころといのちへの対応も大事だからです。

 たとえば、私の病院には専門病院や大学病院で乳がんと診断され、手術や抗がん剤をすすめられた患者さんが、セカンドオピニオンを求めてやってきます。ところがほとんどの場合、セカンドオピニオンは口実で、要は手術や抗がん剤の治療を受けたくないのです。

 私は元外科医で、西洋医学の利点も理解していますから、手術が適している患者さんには、まず手術をすすめます。

「わずか1週間、悪い夢を見たと思えばいいのですよ。すぐに元気になりますよ」

 その言葉で納得する患者さんもいますが、少なからずの人が頑として応じません。

「嫌です。死んでも嫌です」

 そう語る表情はあくまで、さわやかです。感心します。死んでも嫌とは、ある意味、こころが死を許容していることになりますね。こういう患者さんは、西洋医学からすると困りますが、ホリスティック医学では悪くありません。からだとは別にこころといのちがしっかりしているからです。

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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