日本ではかねて選挙に勝つために三つの「バン」が必要と言われてきた。後援組織の「地盤(票)」、知名度の「看板」、選挙資金の「カバン」だ。一般に政治家となるには多大なコストがかかるが、世襲候補は三つの「バン」を親の代から労せずして引き継げる。

 選挙において世襲議員が圧倒的に有利なのは、データからも明らかだ。

 小選挙区制が導入された1996年以降の衆院選の全選挙区、全候補者について分析した日本経済新聞の記事(2021年10月17日付)によると、(1)父母が国会議員(2)3親等内の国会議員から地盤の一部または全部を引き継いだ、のいずれかに該当する候補を世襲と定義した場合、候補者全体の13%が世襲で、世襲候補の勝率は比例代表による復活当選を含めると80%に達したという(非世襲候補は30%)。

 また、昨年の参院選について分析した時事通信の記事によると、世襲の定義を「父母、義父母、祖父母のいずれかが国会議員」または「3親等内の親族に国会議員がいて同一選挙区から出馬」とした場合、世襲候補者は19人。うち14人が当選した。全体の当選率22.9%に対し、世襲候補の当選率は73.7%だった。

 前に示した世襲の定義にあてはめると、96年以降に誕生した12人の首相のうち、非世襲は自民党の森喜朗氏、菅義偉氏と民主党の菅直人氏、野田佳彦氏の4人だけ。永田町の力学で、世襲議員の中から首相が選出される「首相ガチャ」の状態だ。

■親子間で資金が課税されず継承

 むろん安易な世襲の禁止は憲法の定める「職業選択の自由」に抵触するおそれがある。世襲議員のなかに立派な政治家もいるだろうが、世襲政治家の問題点について政治ジャーナリストの角谷浩一氏は、こう解説する。

「世襲政治問題の本質は、親が代表の政治資金団体に子が代表として就任するなどして、その団体の政治資金が非課税でゆだねられてしまうことです。法律を変えるなどして、政治資金団体の代表を引き継いだ場合は課税対象にしてメリットをなくしていくか、代表が代わる場合に残金は国庫に返納させるなどし、引き継ぎができないような仕組みを構築していく必要はあるでしょう」

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