春風亭一之輔・落語家
春風亭一之輔・落語家

 落語家・春風亭一之輔さんが週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「インフレ」。

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 新年1発目の原稿に向かっています。寄席は例年よりお客様も多くてなによりです。いま私が居る喫茶店も賑わっています。年明けからのケーキの値上がりに驚きましたが、正月太りが気になるので今日は我慢しておきましょう。

 さて、初詣はどうしましょうか。神田明神、浅草寺、湯島天神など軒並み激混みなので回避。実家に帰り、近くの某神社にお詣りしました。

 この神社は私が子供の頃は別の場所にありました。雑木林のなかにポツンと。古くてボロボロの小さい御社で、夜でなくてもお化けが出そうな雰囲気でした。でも近所のガキどもには絶好の遊び場。屋根の上を縦横無尽に走ってみたり、鈴の綱にぶら下がってターザンの真似をしたり。壁に丸を描いてボール当ての的にしたり。中学生になってからはエロ本を捨てに行ったり、はたまた拾いに行ったり、まさに青空文庫的存在でした。今思えばなんてバチ当たりなことをしてたのでしょう。ごめんなさい神様。

 その神社に何があったのか、新たに雑木林を切り拓いて移転。見違えるようなゴージャスな御社、広大な境内、巨大な大鳥居、沢山の参拝客を迎える駐車場を備えた近隣でも有数の神社に生まれ変わりました。神様もさぞ喜んでいることでしょう。おめでとう神様。でも何があった?

 朝9時に到着。境内にはお詣り、お札と御朱印を求める大行列。お札の列に並んでると係員から「今のうちにお選びください」と御守りリストを渡されました。キラキラした御守りの数々は値段もギラギラしていてご利益ありそう。昔は御守りもお札も売ってなかったのに。お焚き上げのデカい穴ボコが開いていて、そこから煙が立ち上ってるだけだったのに。お焚き上げブースには「お焚き上げ料は1000円以上でお願いします」というハイパー神社宣言ともとれる但書。超強火でよく燃えそう。でも高くないか? 火をつけるだけで千円オーバー。

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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