滝藤賢一(撮影/写真映像部・高橋奈緒)
滝藤賢一(撮影/写真映像部・高橋奈緒)

「すべての芸術は模倣から始まる」などという言葉もあるが、模倣する対象にドラァグクイーンではなく往年の大女優を選んだところに、滝藤さんのオリジナリティーが感じられる。

「最初はまねから始まるっていうのは、芸術家や俳優だけでなく、何の仕事でもそうなんじゃないでしょうか。まだ俳優として駆け出しの頃、憧れの大御所の俳優さんに“滝藤君、形態模写だよ”とご教授いただいたことがあります。僕はいまだにいろんな方から影響受けてまねしてますよ(笑)。そう言えば、今回、なるほどなぁと唸らされたことがあって。オープニングのダンスのシーンで、自分が思い描いていたパフォーマンスと、実際にスクリーンに映った自分がかけ離れていたんです。あまりのキレのなさに愕然としました。でもこれが、バージンが踊りから引退しようとした理由なんだなと、映画を観て納得できたんです。映画の中では踊らない理由は語られませんから。観ている方の想像力に委ねるのは、映画の醍醐味でもありますものね」

 映画の中でバージンは、ダンスをリクエストされながら頑なに踊らなかった。一世を風靡したドラァグクイーンも、もうピチピチではない。その悲哀は、滝藤さん自身の人生とも重なる部分があるらしい。

「46歳になりましたが、肉体的な衰えは常々感じております。頭でイメージしていることに身体がついてこない。もうね、ガタガタですよ(笑)。理想と現実のギャップに悲しくなります。身体は日々ボロボロになっていくのに、この世界で生き残らなければならない。若い頃のように、勢いや情熱だけでは戦えなくなっています。そういう中でLGBTQ+という役にチャレンジできたのは僕の中で大きかったですね」

映画「ひみつのなっちゃん。」は、2023年1月13日(金)から、新宿ピカデリーほか全国公開(c)2023「ひみつのなっちゃん。」製作委員会
映画「ひみつのなっちゃん。」は、2023年1月13日(金)から、新宿ピカデリーほか全国公開(c)2023「ひみつのなっちゃん。」製作委員会

「ひみつのなっちゃん。」は、滝藤さんが監督との打ち合わせから参加し、夢中になって取り組んだ作品の一つだった。

「今回の映画で、松原智恵子さんと本田博太郎さんの芝居を間近で体感できたことは、自分の財産になりました。やはり、キャリアを重ねれば重ねるほど、この仕事は説得力が増すんだなぁと。人間の深みというか、哀愁というか。智恵子さんは演技で説明しないんです。いろんなことを経験してきたからこそ成立する存在の強さみたいな。生き方って大事なんだなとあらためて思いました。本田博太郎さんは大暴れしてお帰りになられましたね(笑)。帰りのロケバスで“僕はね、120%だから”とおっしゃっていたのが印象深いです。このお年になられても全力なんだなと、ハッとさせられました」

(菊地陽子、構成/長沢明)

※記事後編>>「滝藤賢一「武勇伝を残したいです(笑)」 時代は違っても役者として求める破天荒さ」はコチラ

週刊朝日  2023年1月6-13日合併号より抜粋