2019年、九州で「あなたの街で基地を引き取りませんか?」と訴える多嘉山侑三さん
2019年、九州で「あなたの街で基地を引き取りませんか?」と訴える多嘉山侑三さん

 沖縄に米軍基地があるから日本が守られている……。当たり前のように語られることだが、実は幻想にすぎない。幻想がデマを生み、それが偏見や差別を生む。本土に住む人間の“無理解”“不勉強”が、沖縄の人たちを苦しめてゆく。そんな現実を変えなければ、日本の将来はない。『ネットと愛国』『沖縄の新聞は本当に「偏向」しているのか』などの著書があるジャーナリストの安田浩一さんが、沖縄の人たちが受ける“嘲笑”の実情を報告する。

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「地政学」という言葉を耳にするたび、名護市の多嘉山侑三さん(38)は身構える。沖縄に基地を置きたがる側の屁理屈に聞こえてしまうからだ。

「自分たちが住む地域に基地はいらない。でも、沖縄なら仕方ないという理屈を正当化させるためのロジックでしかない」

 国土面積の0.6%しかない、しかも戦時中に「捨て石」とされた沖縄に米軍基地が集中するのも、結局は「本土」による、こうした差別と偏見によるものだろう。

 最近も、あるタレントが自らのユーチューブ番組で「射程1万キロのICBMが沖縄に配備されれば、米軍が世界の主要都市に睨みを利かせることができる」と発言して話題となった。「地政学」に基づき、沖縄に米軍基地が置かれることの必然性に言及したのだ。

「こじつけもいいところです」と多嘉山さんはため息を漏らす。

「射程1万キロのミサイルが世界の主要都市に睨みを利かせることができるというのであれば、東京や大阪に置いても構わないはず。沖縄に設置する理由はありません」

 日本国民の多くは日米安保条約を支持し、米軍が日本で活動することを認めている。にもかかわらず、基地は沖縄にあるべきだと考えるのは、まさにNIMBY(ニンビー・Not In My Backyard)、つまり「必要だけれど我が家の裏庭には置かないで」の論理であろう。

 沖縄で取材していると、そうした回路が見えてくる。沖縄では基地を容認しようが、否定しようが、常にその存在を考えざるを得ない。だが、「本土」は違う。基地を考える機会はほとんどない。いや、多くの人にとって米軍基地は「考える必要のない」ものだ。基地があるからこそ、戦場に組み込まれるかもしれないといった視点もない。無関心であり続けることが許される。「本土」と沖縄は、常に不均衡で非対称の関係だ。

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