その後、移設先として名指しされた地域の首長が「地政学的に沖縄に基地がなければならない」と発言するなど、多嘉山さんの活動そのものが話題になることはあっても、「引き取り」議論が盛り上がることはなかった。

 獲得したのは「基地を考えなくても済む」本土の側の「特権」を意識することだけだった。「県外の人に期待しない」。そう至った多嘉山さんは、だからこそ、いま、沖縄を内から変えていくことの重要性を考えている。

 22年9月、多嘉山さんは名護市議選に出馬し、当選を果たした。より深く地元と関わるためだ。これまで、ユーチューブ番組での発信や、新基地建設に反対する政治家の支援などをしながら、多嘉山さんが目の当たりにしたのは「基地建設には反対だが、生活のためには(建設を容認する)保守候補に投票する」といった人々の存在だった。

「基地の賛否だけで選挙結果を論じることはできないのだと痛感した。同時に、そうした人々にどうしたら基地問題を伝えることができるのか。特に若い世代の言葉が届きにくい既存の政治勢力の限界も感じたんです」

 これまで沖縄県民は過去3回の知事選で、そして県民投票で、新基地建設に反対の意思を示してきた。一方、市町村レベルの首長選挙では建設容認を掲げる候補の当選が続く。地域には地域としての視点があり、“発展”に向けた疼くような思いがある。これを単なる“ねじれ”だと、わかったふうな物言いで片づけてしまう「本土」メディアへの反発もあった。

 そんな思いを積み重ねていく中で多嘉山さんが選んだのは、自らが議員になることだったのだ。

「民主主義が勝手に天から降ってきたと思い込んでいる“本土”とは違う。沖縄には闘って勝ち取ってきた歴史があるんです。そこを踏まえて、基地を押し付けられる側の本音を発信していきたい」

「本土」の無関心が、ひとりのユーチューバーを立ち上がらせた。

■後ろめたさを隠す「地政学」

 沖縄に基地が集中するのは、本土の側が基地を拒んでいるからであり、その後ろめたさを隠すために「地政学」が利用されるのではないか。要するに中国に近いという地理的優位性が重要視されるのだ。これを「全くの詭弁」と断じるのは、軍事にも詳しい前衆院議員の屋良朝博さん(60)だ。

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