室井佑月・作家
室井佑月・作家

 作家・室井佑月氏は、日本の防衛力強化のために、防衛費増額を検討する政府に苦言を呈する。

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 11月3日、新潟で朝ご飯を食べているときに、あたしの携帯電話がけたたましく鳴った。Jアラートだ。

 北朝鮮が、弾道ミサイルを発射した。はじめは日本上空を越えて太平洋へ通過したとされていたが、それは訂正された。日本の排他的経済水域の外に落下したという。

 携帯の音を大きく設定しすぎていたみたいだ。Jアラートの音に飛び上がって、その際、テーブルに腕が当たり、コーヒーをこぼした。

 まず、こぼしたコーヒーを雑巾で拭いた。それから、携帯の音を小さくした。やったことはそれだけ。

 テレビなどで得た情報によれば、窓から離れ身を伏せて頭を守ったりしたほうがいいのかもしれない。が、あたしはとても古いビルの3階に住んでいる。

 このビルで窓が壊れるときは、ビルごと壊れるときだと思う。

 内閣官房はホームページで、緊急一時避難施設の名前や住所を公開しているようであるが、Jアラートが鳴ってから移動して間に合うとは思えない。

 なにもなかったように朝食のつづきをしながら、(北朝鮮の人たちは今、どうしているのだろう)

 と考えた。

 2012年に大飢饉(ききん)が起き、極端な食料不足から2万人もの餓死者を出したと報道されていた。それからも、ちらほらであるが、北朝鮮の民の暮らしが苦しいという話しか聞こえてこない。

 今回発射したミサイル1発で(というか、そういったものの開発費や整備費なども含めて)、どれだけの飢えている人の食料が買え、助かることだろう。

 これはあたしたちの国にもいえる。11月4日の「日本経済新聞」電子版の「防衛力強化の防衛費、5年間で48兆円 防衛省が見積もり」という記事によれば、

「防衛省が2023年度からの5年間に必要な防衛費を総額48兆円程度だと見積もったことがわかった。防衛力を5年以内に強化する政府方針の実現に使う。今の中期防衛力整備計画は必要予算を19年度からの5年間で27兆4700億円ほどと記しており1.7倍に相当する」

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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