斉加尚代監督(左)とイギル・ボラ監督
斉加尚代監督(左)とイギル・ボラ監督

 不都合な歴史や事実と我々はどう向き合うべきか。教育現場への政治介入を描いた「教育と愛国」の斉加尚代、韓国軍の民間人虐殺問題を追った「記憶の戦争」のイギル・ボラ、両監督が語り合った。

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(取材・構成 ノンフィクションライター・木村元彦)

 斉加 私は、今年5月公開の映画「教育と愛国」をひいひい言って完成させた後に、最初に見た映画が「記憶の戦争」だったんです。それで、韓国でこういうすばらしい映画を作っておられる女性監督がいるんだと知って感激したんですね。

【教育と愛国】20年以上、大阪で教育現場を取材する斉加氏が教育への政治介入を丹念に追った。2022年度JCJ大賞受賞作品。(c)2022映画「教育と愛国」製作委員会
【教育と愛国】20年以上、大阪で教育現場を取材する斉加氏が教育への政治介入を丹念に追った。2022年度JCJ大賞受賞作品。(c)2022映画「教育と愛国」製作委員会

ボラ 私も「教育と愛国」を大変興味深く拝見しました。そして私たちが対談する理由がすぐに分かりました。普通「教育」というと小中高校の教育を扱うのが一般的だと思います。ところが映画が進行するにつれ、大学にまで話が及ぶ。政治介入されたことによって、大学での学問の自由にも影響が及ぶということをこの映画が見せてくれる。映画を作って学問領域で勉強する者として、これはこの社会の問題であり、同時に私自身の問題でもあるんだと思いました。その点においてこの映画は大きなテーマを広げています。

おそらく斉加監督も映画を作ることで、社会がどのように反応するのか、それを通して今の日本社会を見つめておられると思うのですが、私の場合も同様です。韓国で「記憶の戦争」が公開された当時、大きな反発や否定がありました。そんな反応から、韓国社会が今どんな状態にあるのかを正確に捉えることができるのではないかと考えていました。

斉加 ベトナムから韓国にタンさん(8歳の時に韓国軍に家族を殺されて孤児となった女性)がやってきた時の元猛虎部隊兵士の人たちの激烈な反発をボラさんが緻密(ちみつ)に取材されていて、韓国社会を映し出そうとされているというのが伝わってきました。

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