延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー (photo by K.KURIGAMI)
延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー (photo by K.KURIGAMI)

 TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。前回に引き続き「作曲家・いずみたくさん」について。

【写真】1968年当時のピンキーとキラーズはこちら

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 中学の頃、謹厳実直を絵に描いたような生物教師が「昨日テレビで素晴らしい歌手を見た」と興奮気味に話しだした。

「ピンキーさんはしっかり口を開けて歌っている。姿勢もいい。みんなも見習いなさい」

 いずみたくが作曲し、ピンキーとキラーズが歌った『恋の季節』はオリコンシングルチャート17週連続1位、日本レコード大賞新人賞を獲得、村上龍さんの青春小説『昭和歌謡大全集』にもこの曲は入っていて、読み返すたびに何十年も前、ピンキーの魅力を教え子に熱弁した生物教師を思い出した。

 没後30年記念企画「いずみたくソングブック─見上げてごらん夜の星を─」には高度成長期を彩ったいずみの楽曲131曲が収められているが、中でも『恋の季節』は爆発的ヒット。キラーズ(ジョージ、エンディ、ルイス、パンチョ)を従えるダービーハットのピンキーは瞬く間に人気者になり、紅白にも出場した。

「陽子、実は、今度ピンキーとキラーズというグループを作るのだが、君にピンキーとしてソロを歌ってもらいたい」といずみは自叙伝にグループ結成の経緯を書いている。

「先生、私は一人では成功しないのですか。コーラスの一員になるのですか」当時十六歳のピンキーはポロポロと大粒の涙を流した。(いずみたく『新ドレミファ交遊録』)

 半世紀以上経った今年、僕はピンキーこと今陽子さんに会いに行った。

 キラーズ(殺し屋たち)と命名された男性たちはナイトクラブやキャバレーで演奏するバンドマン。

「先生。あんな大きな娘がピンキーですか」「もう少し、小さくて可愛いのがいいな」

 四人の男たちが、無遠慮に好きなことを言い出したといずみは回想している。

「私だって、なんでこんなおっさんたちとって。でもこれは先生が考えたプロセスの一つだったと後で知ったんです」

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延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

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