三木:大阪は商人の町ですから、社員教育が厳しかったりするんですか?

池井戸:どうでしょうね。おもしろいルールはありましたね。大阪出身でない者が関西弁を使うのはダメ。ただし、電話に出るときに「まいど!」と言うのだけは許されるみたいな(笑)。

■自分の意思を仕事にぶつける

──2人のあきらは、新入社員時代の池井戸さんの分身のようなものでしょうか?

池井戸:いえいえ、今回の映画を見て、この2人がうらやましいと思いました。その資金係の後、融資係にまわされましたが、そこでも「どこどこに行って金貸してこい」とか、いくらいくらの目標をクリアしろとか、上司に言われるがままに仕事をしていて、自分の意思や主義で動ける部分はとても小さかった。「アキラとあきら」の2人のように、例えば誰かを助けたいとか、自分の意思を仕事にぶつけることはできなかった。映画を見て、本当は自分も2人のように、自分の意思で仕事をしたかったんだなあと改めて思いました。まあ、新入社員の時間というのは、畑で言えば、肥料をまいているような時間なのかな? これからタネをまくぞという。

三木:僕もそう思います。新人だった時間が、今の自分につながっている。

池井戸:いろんな会社を500社ぐらい担当していたんですけど、会社を訪ねると、それぞれぜんぜん雰囲気が違うんですよ。得意先の社長さんだって、それから上司だって、いい人もいれば、悪い人もいる。そういうことがわかっただけでも財産だなと、今もよく思うんですよね。

(ライター・福光恵)

週刊朝日  2022年9月2日号