「言い換えれば、マンションであっても戸建てであっても、今住んでいる場所が、これから先にこれ以上高く売れることは考えにくい。少し時間が経てば下落に転じるところも多くなると思われます。高止まりしている今が、売り時だと考えます」(後藤さん)

 家選びには、それぞれの価値観があらわれる。どの視点から見るかによって、その家の価値は変わってくるものだ。将来的に高齢者施設や子どもと同居という道を選ぶケースもありうるシニア世代の住み替えは、いずれ人に「売る」「貸す」ことを選択肢に入れて物件を選ぶに越したことはないはずだ。ここでは主に「資産価値を保ちやすい物件」という視点から、マンションへの住み替えを検討する際の注意点を考えたい。専門家らに話を聞くと、九つのポイントが浮かび上がってきた。順を追って解説しよう。

週刊朝日 2022年6月10日号より
週刊朝日 2022年6月10日号より

【売却時の注意点】

(1)「売り」と「買い」を無理に同時進行しない

 買い替える際には、これまで住んだ不動産を売却した資金を元手に、新たな不動産を購入するケースが多い。しかし現実的には「売る」タイミングと「買う」タイミングを合わせるのは難しく、「売り買い」を無理に同時進行させようとすると失敗を招きかねない。それは、売却を焦るあまり割安な価格で売却せざるを得なかったり、新居をじっくり探せなかったりする恐れがあるからだ。そのため、現実的には「売り」か「買い」どちらかを優先して進めるとよい。

「売り先行」の場合には、売却した代金を、住宅ローンの残債があれば返済にあて、余裕があれば新居の購入資金にあてられる。売却代金が確定してから新居を購入するため、資金繰りの計画が立てやすいのもメリットだ。「買い先行」は、今住んでいる不動産のローンが完済済みで、資金計画に余裕がある人に向く。新刊『60歳からのマンション学』などで知られるマンショントレンド評論家の日下部理絵さんは言う。

「築年数が古かったり、駅から遠いなどの場合には、売り先行で焦らず売却活動をするのがおすすめ。売り急いで不本意な値下げに応じたら、老後の資金計画に大きなリスクが生じることにもなりかねないので、しっかりとした計画を立てて」

(2)売却相場を把握してから仲介会社を訪れる

 一般的に不動産を売却する際には、不動産仲介会社が間に入るケースが多い。しかし何の知識もない状態で目についた不動産仲介会社を訪ねてしまうと、悪条件の商談を持ちかけられることもあるため、要注意だ。

「不動産仲介会社は、取引が成立した際の成功報酬で動いているところが多い。そのため本来重要である諸条件を鑑みず、『今すぐ売るべき。今なら相当高く売れる』などと畳み掛けられることがあります」(後藤さん)

 こうしたことを防ぐには、自分なりに周辺物件を比較して売却目安の価格を把握し、「これ以上は値下げしない」などの希望額のラインを明確にしておくこと。目安の金額は、戸建てであってもマンションであっても、近隣の中古物件の販売価格が参考になる。築年数や広さなども、なるべく自分が住んでいる家と同じ程度の条件の物件が比較対象にしやすい。

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