──映画では「差別する側」の話も聞いています。裁判が続いている「全国部落調査」復刻版事件(注)被告の宮部龍彦氏にもインタビューして、YouTubeに公開して差別を助長すると批判されている「部落探訪」にも同行して、その様子を映しています。

 彼とコンタクトをとったのは2016年。映画の撮影に入る前ですので、アーカイブ的な扱いにしてあります。裁判で「なぜ地名をさらすのか」と部落解放同盟側から批判を受けていた。批判の一部には09年に「にくのひと」で僕が抗議を受けたのと重なるものもあり、彼に興味をもったというのが取材動機でした。

──ここでも「当事者」から直接話を聞く姿勢が貫かれています。

 僕が彼の考えに同意しているわけではないというのはわかったうえで撮影に同意してもらっています。僕は、彼個人というよりも彼の背後にある多くの日本人の部落に対するまなざしを描き出したかったんですね。そのためにもカメラを向ける私と彼の関係性から見えてくるものを撮ろうとしました。

──それは「にくのひと」の経験とつながっていることでしょうか?

 あのとき僕は、部落のことに対して自分は異邦人であるという認識をつよくもちました。同時に、日本の圧倒的多数が部落問題にとっては他者であるとも。他者である自分が、この問題とどう向き合うのか。それはつくり手としての僕のテーマです。そして宮部さんの映画の中の立ち位置は、他者である僕たちにとって唯一自分事にできる。仮に、彼を単なる悪として描いてしまうとその瞬間、他人事になってしまう。観客に問いかけるためには、まずはひとりの人として描かないといけないと思った。なぜならこの映画はより多くの人、部落問題のことを知らない人たちに観てほしいから。

(取材・構成/朝山実) 

■「私のはなし 部落のはなし」は部落差別をテーマにした3時間25分のドキュメンタリー。年齢も性別も様々な被差別部落出身者約20人が体験を語る。グループで語り合う場面が軸になり、同和問題の研究者、被差別部落への潜入動画を撮るユーチューバーらの「はなし」にも耳を傾ける。

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