コロナや戦争で、さまざまなものが分断されていく世界──。新国立劇場では、21年から22年のシーズンに「声」というテーマを掲げ、「議論、正論、極論、批判、対話…の物語」をピックアップした。そのトリを飾るのが「貴婦人の来訪」だ。

「演劇は、時代ごとに生まれる作品にしても、長い時間をかけて演じ継がれている作品にしても、上演されるたびに、何かしらの普遍的な問題を提起することが多い。今回の舞台では、全体主義的な声にのまれる人々の悲喜劇が描かれるので、今の時代だからこそ、身につまされることがあるのではないかと思います」

 相島さん自身が声をあげたいことを聞くと、「コロナであろうがなかろうが、お芝居は面白いよ、ということを発信していきたい」との答えが。

「でも、いくら『面白いよ』と言っても、観たことがない人にはあの空気は伝えられない。だったら、自分が面白いと思う作品を、やり続けることしかないんだろうな、と。エンタメには、その時々によってのブームもあるけれど、それに負けずに粛々と、誠実に。結局、僕ら俳優にできることは、それしかないと思う」

 50歳前後に2人の子供を授かった相島さんは、1学期に1回程度、読み聞かせのために子供たちの小学校を訪問する。

「ほんの10分ぐらいの短いワークショップみたいな時間ですが、谷川俊太郎さんの『ことばあそびうた』やヨシタケシンスケさんの絵本を読むと、子供たちが大喜びしてくれた。ああいう空気は、ちょっとした演劇体験に近いものがありますね」

>>【前編】俳優・相島一之が“演劇の魔法”を経験「席を立てないほどの感動」

(菊地陽子 構成/長沢明)

週刊朝日  2022年5月27日号より抜粋