「近所のおばあさんに、あなたの一生を書いてくださいと言ってもなかなか書いてもらえないので、こっちから聞きに行くことにしたんです。普通の人々の生き死にを記録したくて始めたんですけど、何が出てくるかわからない面白さがあります」
震災や戦争は人の人生を大きく変える。この本にも戦災の話が何度も出てくる。
森さんは今後も「自分では書かない人たち」の歴史を書いていきたいという。ただ、アレクシエーヴィチが聞き書きでノーベル文学賞を受賞したのに対して、日本では聞き書きはそこまで注目されていない。
「どんなに評価されなくても、いくら儲からなくても、聞き書きの仕事が好きなの」
と森さん。調子に乗って「最後に聞き書きのコツを一つ」と問うと、
「ただでは教えないよ~」
と笑いの煙幕を張って去っていった。どの店から行くか、悩むのも楽しい一冊だ。(仲宇佐ゆり)
※週刊朝日 2022年5月20日号