映画「N号棟」は、29日から新宿ピカデリーほか全国公開 (c)「N号棟」製作委員会
映画「N号棟」は、29日から新宿ピカデリーほか全国公開 (c)「N号棟」製作委員会

 当時は、ハードな稽古で肉体的に疲弊することよりも、同じキャラクターを演じることによる精神的なダメージのほうがずっとつらかった。

「劇団にいたときは、役に俳優を当てはめてから脚本を書き進める、いわゆる“当て書き”だったので、どうしても一つのパターンの役が多くなっていた。さっきのロールプレイングの話に通じることですが、人間って、一つの人間関係の中で、一つの役割だけを演じていたら、大抵バランスを欠くんですよ。私も、似たようなキャラクターを演じ続けるのはものすごくつらくて、心の中で、毎日悲鳴をあげていました。映像に行ったときは、いろんな役を演じられることが嬉しかったですね」

 第三舞台を退団後に、最初に出演した作品は映画だったが、「舞台で伝えられるのが熱だとしたら、映像で伝えられるのは皮膚感覚だ」と思った。

「大きなスクリーンで見たときに、感情が皮膚から伝わるような気がして、それで俄然映画が面白くなっちゃった。でも、映像をやっているときの一番の快楽は、最初に自分では理解できないだろうと思い込んでいたセリフが、何かのタイミングで、『このセリフを言うときってこの気持ちかな?』って思えた瞬間です」

(菊地陽子、構成/長沢明)

筒井真理子(つつい・まりこ)/山梨県出身。1982年、早稲田大学在学中に、劇団「第三舞台」で初舞台。第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門の審査員賞を受賞した「淵に立つ」(2016年)で、毎日映画コンクール、高崎映画祭、ヨコハマ映画祭の主演女優賞三冠。「よこがお」(19年)で、令和元年度芸術選奨映画部門文部科学大臣賞ほか、多くの賞を受賞。Netflixで配信中の「ヒヤマケンタロウの妊娠」に出演。

週刊朝日  2022年5月6・13日合併号より抜粋