筒井真理子 [撮影/加藤夏子、ヘアメイク/在間亜希子(MARVEE)、スタイリング/齋藤ますみ、衣装協力/ISSEY MIYAKE、グロッセ(グロッセ・ジャパン)]
筒井真理子 [撮影/加藤夏子、ヘアメイク/在間亜希子(MARVEE)、スタイリング/齋藤ますみ、衣装協力/ISSEY MIYAKE、グロッセ(グロッセ・ジャパン)]

 劇団時代にキツイ稽古を経験した俳優の筒井真理子さん。自分を追い込んだ末に見えたもの、肉体的に疲弊することよりもつらかったこととは──。

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 旗揚げして間もなかった劇団「第三舞台」の門をたたいたのは、人間関係で悩みを抱えていたときだった。最初にもらったのは通行人の役。ずっと笑っているだけの役だが、無理してでも笑っていれば、つらい感情が忘れられることがわかった。

「こんなに簡単に非日常の世界に飛んでいけるなんて、お芝居の力ってなんてすごいんだろうと思いました。ちょうどその頃に、ロールプレイングの効果についての本を読んで、『人間は、現実の中で父親なら父親、社長なら社長という立場を与えられたら、頑張ってそれを演じようとする。でも、本当に自分に合っているかどうかわからない役柄を長いこと演じ続けるのは、精神衛生上よろしくない。だから、芝居を通して、現実世界以外の役を演じてみることは、ある種のセラピーのようなものかもしれない』と思いました」

 とはいえ、第三舞台の稽古には、厳しい身体訓練がつきものだった。男子も女子も、同じ板の上に立つのだからと区別はなく、稽古前には、腹筋100回、ヒンズースクワット100回が当たり前のように課せられた。

「痺れた足腰を引きずりながら、『無理です、キツすぎます』と陳情しても、『甘えたこと言うんじゃない!』と一喝されました(苦笑)。今だったら、コンプライアンス上許されないでしょうけど、当時はそれが当たり前だった。自分だけだったら救いようがないけど、みんなが一緒に追い込まれるから。それで耐えられたんですね」

 そのキツイ稽古に耐えることで、見えてきた景色もあるという。

「とことんまで追い込まれると、どこかで開き直れる瞬間があるんです。『これでダメならごめんなさい』と、自ら背水の陣を敷けるような気持ちというのかな(笑)。スッと光が見えるような、ちょっと神々しいような、不思議な瞬間。当時はとても苦しかったけれど、優しく優しく接して人が伸びるかというと、そうでもないような気もするんです」

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