下重暁子・作家
下重暁子・作家

 人間としてのあり方や生き方を問いかけてきた作家・下重暁子氏の連載「ときめきは前ぶれもなく」。今回は、「外苑の『再開発』に思う」。

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 明治神宮外苑の再開発に伴い約千本の樹々の伐採が計画されている場所を、多磨霊園へ墓参りに行った帰りに通ってみた。

 ずっと気になっていた。こういう計画は都民や区民にまず意見を聞くべきだと思うのだが、たいていの場合、計画が知らぬ間に進み、知らされた時には後の祭りということが多い。

 なぜ堂々と公表しないのか。今回も、疑問を持った大学教授が現地を歩き、樹木を一本ずつ確認する調査を行い、都に取材してようやく表に出た。

 計画によれば、神宮球場と秩父宮ラグビー場の建て替えにプラスして、商業施設やオフィスの入る高層ビルが建つ予定とか。東京など高層ビルは次々と建ち、そんなに必要とされているのか……そのうち日本の都市は高層ビルだらけのゴーストタウンになるのではないか。

 私の棲む都心のマンションは緑の中に低層ビルが連なり、高層ビルから移ってくる人も多く、東京タワーの上から見ると、そこだけまとまった緑がある。そのことが資産価値を高めているそうだ。

 神宮外苑は、完成した時に日本で初めての風致地区に指定され、高さ十五メートルを超える建物は建てられなかったのを、東京五輪のために高さ制限が八十メートルになった。公園だった地区に高層ビルが建ち、代替地はない。

 現在約千九百本あるうち約千本が伐られるといい、残せる樹木は移植も含めて残すというが、国立競技場の横を毎日のように通るたびに、色の変化が気になる。国立競技場の建て替えで移植をした木に異変が出ているのではないか。と思っていたら、確かに常緑樹で黄色く枯れたものもあるという。

 私は毎年十二月一日前後にラグビー早明戦を見に行くのが恒例になっていたが、黄色い銀杏の葉を踏みしめて外苑を歩くのが楽しみだった。

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下重暁子

下重暁子

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

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