木下繁貴代表(右端)ら東風のメンバー(撮影/写真部・松永卓也)
木下繁貴代表(右端)ら東風のメンバー(撮影/写真部・松永卓也)
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「日本のドキュメンタリー映画で一人勝ち」と言われる配給会社がある。東京都新宿区の合同会社「東風(とうふう)」。社員5人の小さな会社の取材を続けると、「ヒット作を生み続けるヒミツ」などいろんなことが見えてきた。ライターの朝山実さんが、映画監督や劇場支配人ら「外」の声を紹介する。

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 3月初旬の夕方。千葉県内のJR常磐線の駅で森達也さんと待ち合わせた。時間ぴったりに改札口の前にあらわれ案内されたのは駅の側のモスバーガーだった。二人分のホットコーヒーを頼み、席につく。インタビューをするにはほどよい静かさだが、4人掛け席には透明のアクリルボードの衝立が置かれていて、拘置所で面会しているように思えた。


 森さんは、オウム真理教の一般信徒たちが生活する施設に潜入した『A』(1998年)や、ゴーストライター騒動の当事者だった佐村河内守氏の自宅にカメラを持ち込んだ『FAKE』(2016年)などで知られるドキュメンタリー監督だ。対面取材を申し込んだのは、新宿の雑居ビルに事務所のある映画配給会社「東風」のことを聞きたいと思ったからだ。


「『あさま山荘事件』からちょうど50年だから話すわけでもないけれど、これまで連合赤軍やよど号ハイジャックのメンバーたちに話を聞く機会が何度かあって、要するに人間の過ちというのは集団の中で特に閉鎖性が強ければ強いほど強いリーダーを求め、そのリーダーに従うことで起きる、と実感しています。連赤(連合赤軍)だけではなく、ナチスドイツやオウム、文革時代の中国やベトナム戦争時のホワイトハウス、大日本帝国やいまのプーチン政権だってそうですよね。自分たちのつくりあげたカリスマに側近が逆らえなくなって、暴走して失敗する」


 森さんは映画デビュー作『A』以来一貫して集団と個人の関係に関心を寄せてきたドキュメンタリストだ。これまで監督取材など東風の事務所を訪れる機会があるたび感じてきた「居心地のよさ」について話してみた。

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