「彼らはピンチのときに一緒に闘ってくれるんですよ」と語るのは、『選挙』『精神』など、「観察映画」の手法で知られる想田和弘監督だ。


 想田監督は撮影・編集もひとりで行っている。大学時代の友人が川崎市議会の補欠選挙に自民党の公認を受けて出た際に密着したデビュー作『選挙』は、海外の映画祭で「ドブ板選挙」が注目される一方、政治家から抗議が寄せられもした。


「当時は別の配給会社ですが、『自分でなんとかしてください』って逃げてしまった。まあ、それが普通なんでしょうけど」


 想田が東風に信頼を寄せるのは何かあったときに「一緒に何とかしましょう」と対応されたことだという。「見た目はぜんぜん闘いとは無縁の人たちなんだけど。それに東風のおかげで僕はずっと映画だけで食べていけていますし。それってドキュメンタリーの世界ではすごいことなんですよ」


 想田に、配給作品の選定から重要事項について社員の「合議制」で決めているのが面白いという話をすると、「そうそう」とうなずく。


「あそこは社員の間にヒエラルキーがない。人間関係がタテではなくヨコなんですよ。木下さんが威張っているところなんか見たことないし、逆に若いスタッフからポンポン言われていたりする。じつはそこが彼らの強さのヒミツ。だって、誰ひとりとしてやらされている感がない。自分の意思で決めて動く、ぜんぶ<自分ごと>というのは強いんですよ」


 想田の声が弾んでいた。「さらに言うなら、たとえばホームページなどで<わが社は合議制をもとにデモクラティックな会社運営を目指しています>と宣伝するわけでもない。自然さがいいんですよ」


「彼らの腹が決まる場面に立ち会ったことがある」と語るのは、阿武野勝彦。東海テレビの名物プロデューサーだ。「もう7、8年になるんだけど、酔うといまだにあれは彼らに非難されるんですよ」と苦笑いする。


◆酷評であってもちゃんと聞く


 しばらくヒットに恵まれていない台所事情をおもんぱかった阿武野が、スポンサーのついた作品を仲介したことがあった。この一件が彼らに「確信」を抱かせる結果になったと阿武野はみている。

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